清くて正しい社内恋愛のすすめ
 浮かれてばかりはいられない。今日は加賀見に話したいことがあったのだ。

 穂乃莉と加賀見が祖母から二人の関係を認めてもらえた日、本店で二人は東雲に出会った。

 そして東雲の話を聞いて以降、加賀見はふとした瞬間に物思いにふけるような顔を見せるようになったのだ。


 ――きっと、東雲さんの言葉を気にしてるんだ。


 あの日東雲は、母のことを許していないと言っていた。

 そして加賀見に、自分と兄弟だという事は忘れてくれて構わないと告げたのだ。


 ――そんなの、悲しすぎる……。


 加賀見はそれ以降、母や東雲のことは一切何も口に出していない。

 それでもどうにかしたいと、もどかしい気持ちを抱えていることだけは、穂乃莉にも痛い程伝わってきていた。


「そういえば、引っ越しの準備は順調か?」

 信号待ちで足を止めた加賀見が、穂乃莉の顔を振り返る。

「うん、まぁまぁかな。結構この五年間で物が増えちゃって、実家の部屋に入るか心配な感じ」

 穂乃莉は小さく肩をすくめた。
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