清くて正しい社内恋愛のすすめ
「あっれー? 穂乃莉ちゃん、グラスが空じゃない」

 しばらくして、やけに陽気な声が聞こえ顔を上げると、玲子が卓に肩を支えられながら現れた。

 今日も玲子はハイテンションだ。


「マスター! ソルティドッグ追加で」

「玲子さん。ちょっと完全に酔っ払いですよ! 穂乃莉さんも困ってるじゃないですか」

「卓! あんた口うるさいわよ」

 玲子はキッと睨みつけると、卓の頬っぺたをぎゅっとつねる。

「痛い痛い痛い! この人は本当に酒癖悪いんだから……」

 顔を真っ赤にした卓と、それを楽しむ玲子。


 穂乃莉はその様子をキョトンとして見ていたが、花音と顔を見合わせると、ぷっと吹き出した。

 なんだか、二人のかけあいを見ているだけで元気が出る。


 するとマスターが脇から穏やかな笑顔で、穂乃莉の前にグラスを置いてくれた。

 綺麗なイエローの淡い色が、氷の中で揺れている。


 ――モヤモヤも全部、飲み込んでしまえ。


 穂乃莉はグラスを手に取ると、ぐっと勢いよく口に含む。

 爽やかなグレープフルーツの香りと、ほんのりしょっぱい塩味が、まるで初恋の味のようだと思いながら。
< 44 / 445 >

この作品をシェア

pagetop