清くて正しい社内恋愛のすすめ
 でも、五年間同期として呼んできた“加賀見”という呼び方を、どのタイミングで変えたら良いのかわからなかったのだ。


 ――加賀見も気にしてたんだ……。


 穂乃莉は姿勢を正すと、加賀見の顔を正面から見つめる。


「りょ……りょう……すけ……」

 穂乃莉の顔は真っ赤だ。

 穂乃莉はあまりの恥ずかしさに耐えきれず、思わず目を閉じる。

 でも一向に目の前の加賀見からは返事がない。


 穂乃莉がそっと薄く目を開くと、加賀見はにんまりとしている。

「聞こえなかったなぁ?」

「え!?」

「もう一回」

「……りょうすけ」

「もう一回」

「陵介……」

「もう一回」

「もう! 陵介!」

 穂乃莉の大きな声が室内に響く。

 加賀見はにんまりと口元を引き上げると、再び穂乃莉の顎先を指で持ち上げた。


「大変よくできました」

 その途端、穂乃莉の身体はふわっと浮かび上がる。

「ちょ、ちょっと!?」

 加賀見は穂乃莉をお姫様抱っこすると、隣の部屋へと向かった。

「ちょっと、どこ行くの!?」

「ベッド♡」

「はい!?」

「さっき一番に片付けといた」

「も、もう……ばか……」

 穂乃莉は真っ赤になった顔を両手で覆う。


 加賀見は、そんな穂乃莉をそっとベッドに横たえると、優しく髪を撫でた。

「もう一回呼んで」

「……陵介」

「ほら、これで慣れただろ?」


 加賀見はにんまりと腹黒王子の顔をチラつかせると、三ヶ月分の甘いキスを穂乃莉の唇に降らすのだ。



【おしまい】
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