清くて正しい社内恋愛のすすめ

虫よけポジション

「ありゃりゃ。穂乃莉さん完全につぶれてますね」

 脳内の遠くの方で声が聞こえる。

 穂乃莉はまるで水中にいるかのように、遠くで響くその声にぼんやりと意識を向けた。


「こんなになるなんて珍しいな? 石崎、お前悪ノリしすぎだ」

 ふわふわとした頭の中で、たしなめる様な声が遅れて聞こえて来た。

「はーい。すみましぇーん」

「だから僕が言ったじゃないですか」

「もう、あんたは口うるさいんだってば」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ声に、だんだんと意識がはっきりとしてくる。


 ――あれ……? 私、寝ちゃってた……?


 穂乃莉は無理やり瞼を押し開くと、ゆっくりと頭を持ち上げた。


「穂乃莉さん、大丈夫ですかぁ?」

 花音が側に駆け寄り、心配そうな顔を覗き込ませる。

「う、うん……ごめん、寝ちゃってた」

 そう答えながらも、ぐるりと視界が回り、慌ててこめかみに手を当てた。

 どうもあの後、完全に酔っ払いになった穂乃莉は、机に突っ伏して眠ってしまっていたようだ。
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