清くて正しい社内恋愛のすすめ
「その様子じゃ、一人で帰るのは無理だな。送ってくよ、立てるか?」

 相田の声がすぐ側で聞こえる。

 優しく腕を支えられる感覚に、穂乃莉は手を振りながら身体を持ち上げた。

「だ、大丈夫です! 一人で立てますから……」

 こんな風になるのは初めてだ。

 みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。

 穂乃莉は無理やり笑顔を作ると、立ち上がるために全身に力を込める。

 その途端、再びぐらりと視界が揺れ、穂乃莉の身体は相田に受け止められた。


「おい! 大丈夫か?」

「か、課長、ごめんなさい……」

 慌てて相田の腕から逃れ、足を踏ん張ろうとした時、穂乃莉の両足はスカッと宙を舞った。


 ――え? なに?


 何が起きたのか思考が追い付かず、ジタバタと暴れた穂乃莉は、強い腕の力にそれを制止される。


「大丈夫です。穂乃莉は、俺が連れて帰りますから」

 耳元でギュッと心が掴まれるような低い声が響き、穂乃莉は顔を上げた。

 穂乃莉の身体はふわりと浮かぶと、加賀見の腕の中におさまっていたのだ。
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