清くて正しい社内恋愛のすすめ
 冷たい夜風にだんだんと頭は冴えてきた。

「本当にもう大丈夫だから」

 店からだいぶ離れた所で、穂乃莉は加賀見に「下ろしてくれ」と懇願するような顔で見上げる。

 ここまで来る間も、道行く人たちの注目を十二分に集めてきた。

 穂乃莉は恥ずかしくてたまらないのに、それでも加賀見はずっと無表情のままだ。

 すると急にぴたりと足を止めた加賀見が、頬をむっと膨らませた顔で、腕の中の穂乃莉を見下ろした。


「あのさぁ。お前、誰と恋愛してるか、わかってんの?」

 加賀見の声は珍しく怒っているように聞こえる。

 穂乃莉は目を丸くすると、まじまじと加賀見の顔を覗き込んだ。

 穂乃莉が無表情だと思っていた加賀見の顔は、ご機嫌斜めな顔だったのだろうか?


 ――もしかして、課長に抱きとめてもらったから?


 つまり、加賀見も穂乃莉と同じように嫉妬していた?

 穂乃莉はじわじわと嬉しさがこみ上げ、ついに我慢できずにぷっと吹き出した。

 穂乃莉にだって「加賀見は、可愛い子に囲まれてにやけてたでしょう?」とか「どうせ私は虫よけですから?」とか、言いたいことは山ほど溢れている。
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