清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穂乃莉はそこまで言った所で、はっとして加賀見の顔を見上げる。

「ふーん」

 口元で弧を描いた加賀見の顔つきは、明らかに腹黒王子の顔だ。

「あ……いや。えっと……」

 急にたどたどしくなり慌てて手を引っ込めた穂乃莉の心の内を、加賀見が見逃すはずがない。


「それでお前、やけ酒したってワケか」

 加賀見の唇が、目の前で楽しそうに動く。

 「ち、違う……いや、違わないけど……」

 穂乃莉は耐え切れずに、顔を真っ赤にしてうつむいた。

 これじゃあまるで、穂乃莉が加賀見のキスの虜になったと告白したようなものじゃないか。

 加賀見は、穂乃莉の様子にあははと声を上げて笑った。


「キスはしたよ。右手にね」

「は? 右手?」

「そう、手の甲にチュって」

「はい!? なにそれ……そんな子供だまし」

 手の甲を指さす加賀見に、穂乃莉は愕然として倒れそうになる。


「しょうがないだろ? 道端で泣かれて、それしか方法が思いつかなかったんだから。王子様みたいで恥ずかしかったけどさ」

「それで白戸さんは納得したの?」

「してないよね。だからこんなことになってる」
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