清くて正しい社内恋愛のすすめ
 どれくらい時間が経っただろう。

 しばらくして開いた扉から姿を現したのは、穂乃莉の“はとこ”に当たる久留島 忠則(くるしま ただのり)だった。


「よお、穂乃莉。久しぶりだな」

 口元をいやらしく引き上げた忠則は、上質なスーツに似つかわしくないチャラチャラした雰囲気を醸し出しながら、穂乃莉に近づいてきた。


 忠則は穂乃莉の二つ歳上で、祖父の弟の孫にあたる、いわば遠い親戚。

 昔から年齢が近いこともあり“忠則兄さま”と穂乃莉も慕っていた。

 しかし、久留島の不動産会社の社長に忠則の父が就任してからというもの、忠則の生活は次第に派手になり、いつからか疎遠になったのだ。


「どうも」

 穂乃莉は素っ気なく挨拶を返す。

 そんな穂乃莉の態度も一向に気にする様子の無い忠則は、馴れ馴れしく穂乃莉の肩を抱いた。


「お前、またいい女になったな。都会で一人自由に楽しくやってんだろ?」

 虫唾(むしず)が走るような忠則の言葉に、穂乃莉はパッと抱かれた手を振り払うと、キッと睨みつける。

「なんだよ。連れないな」

 忠則は相変わらずニヤニヤと笑いを浮かべていた。
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