清くて正しい社内恋愛のすすめ
「そういえばお前、本社に戻るんだってな。俺も近々、親父(おやじ)から社長業を継ぐ。これを期に、俺とお前が結婚すれば、久留島は未来永劫安泰(みらいえいごうあんたい)ってもんだよな」

「ふざけたこと言わないで。私は兄さまと結婚する気なんて、さらさらないから!」

「へぇ。そんな事言っていいのかねぇ」

「どういう意味よ」

「俺は久留島不動産を今の倍以上の企業に成長させる。下手したら本社も本店も飲み込むってことだよ」

「なに……言ってるの!?」

 眉間に皺を寄せた穂乃莉の顔を見ながら、忠則がくくっと楽しそうに肩を揺らした。


「まぁ今に見てな、お嬢様。そこのばあさんにも、あっと言わせてやるから」

 忠則は祖母が控えている執務室を指さしながら、穂乃莉の耳元に顔を寄せる。

「お楽しみは、また今度」

 忠則はいやらしい声でそう言うと、穂乃莉の耳たぶをチリっと甘噛みした。


「いやっ……」

 穂乃莉の全身にぞわぞわとした悪寒が走る。

 噛まれた耳を押さえながら、さもおぞましいものを見るような目つきで飛びのいた穂乃莉に、忠則は再びくくっと肩を揺らした。
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