清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ――おばあさまも、疲れてるのかな。


 やはり来年、こちらに戻ることを決めたのは正解だったのだと、自分に言い聞かせる。

 それがなければ、加賀見と契約恋愛することもなかっただろうし、きっと今もただの同期のままだったのだろう。


 すると突然、小さくため息をついた穂乃莉の前に、電話を終えた祖母のほころんだ顔が覗く。

「おかえり、穂乃莉」

「ただいま、おばあさま」

 祖母は隣に腰を下ろすと、穂乃莉の両手を愛しそうに何度もさする。

 その温もりに、穂乃莉も安心して笑顔を見せた。


「元気そうでよかったわ。穂乃莉、あなたちょっと……綺麗になったんじゃない?」

「え!?」

 くすりと肩を揺らす祖母に、穂乃莉は大袈裟に驚いて見せる。


 まさか今まさに恋しているからかも、なんて口が裂けても言えるわけがない。

 穂乃莉は愛想笑いだけ返すと、話題をそらすように口を開いた。

「おばあさま、相変わらず忙しそうだね」

「まぁ、毎度のことなんだけどね。そうそう、忠則には会った?」
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