清くて正しい社内恋愛のすすめ
 テーブルには向かい合わせに三脚ずつ椅子がセットされており、手前の真ん中の椅子を加賀見が引いた。

 穂乃莉はその向かいの椅子にぎこちなく腰かける。

 花音たちにひやかされたからだろうか。

 妙に色々と意識してしまい、穂乃莉の心臓はドキドキと次第に早くなっていた。


「お前、意識しすぎ」

 そんな穂乃莉の心を見透かしたように、加賀見はぷっと吹き出すと声を上げて笑いだす。

「い、意識なんか、してないよ……」

 穂乃莉は小さく声を出すと、赤くなった顔を隠すように下を向いた。


「ふーん。じゃあ、俺に言いたいことがあるとか?」

 加賀見は資料とノートパソコンをテーブルの脇にずらすと、片手で頬杖を突きながら穂乃莉の顔を覗き込む。

 そして反対の手を伸ばすと、穂乃莉の髪をそっとすくった。

 長い指先が穂乃莉の髪をもてあそぶかのようにクルクルと動く。

 頬に触れそうで触れない指先は、まるで本心を言わない穂乃莉に対して、わざと意地悪くじらしているように感じてしまう。
< 72 / 445 >

この作品をシェア

pagetop