清くて正しい社内恋愛のすすめ
「いや、うちは親が海外だからさ。こっちにいたよ」

「そうなんだ」

 加賀見は帰国子女だったと聞いていたが、両親はまだ海外に住んでいるのか。

 加賀見のスマートだけどちょっと強引な行動は、海外生活が長かったからかも知れない。

 おしゃれな街並みを、颯爽と歩いていたであろう加賀見の姿を、ぼんやりと想像してしまう。


「そっちは? ゆっくりできたのか?」

「あ、うーん。まあね……」

 途端に脳裏に、祖母が掲げた大量のお見合い写真や忠則の顔が思い浮かび、穂乃莉は言葉を濁した。


「何かあったのか?」

「いや、あの。お見合い写真が、いっぱい積んであった……」

 加賀見はキーボードに乗せた手をピタリと止めると、小さく肩をすくめた穂乃莉の顔を振り返る。

「いやになっちゃうよね。そんな気ないのに……」


 ――だって今は、加賀見がいるから……。


 穂乃莉は最後の言葉をのみ込むと、そっと加賀見の様子を伺う。

「ふーん」

 加賀見の低い声が聞こえた。
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