清くて正しい社内恋愛のすすめ
「そういうのって、一つ一つ見るのか?」

 伺うような加賀見の声色に、穂乃莉は「まさか!」と大きな声を出した。

「見るわけないじゃない。っていうか、見る気にならないよ……」

「どうして?」

「どうしてって……そ、そんなの、決まってるでしょ!?」

「なんだろ? そんな気ないから?」

 加賀見は腕を組むと、「はて?」と何度も首を傾げる。


「違う!」

「じゃあ、なんで?」

「もう! 加賀見がいるからに決まってるでしょ!?」

 穂乃莉は立ち上がると、机にドンっと両手をついた。

 その瞬間、目の前の顔がにんまりとほほ笑み、穂乃莉ははっと口元を押さえる。


 ――しまった……。


 まただ。またしても腹黒王子の罠に引っかかってしまった。


 ガックリとうなだれる穂乃莉の前で、加賀見が満足そうに口元を引き上げる。

 加賀見は立ち上がり、机の上に軽く腰を乗せると、そのまま穂乃莉の顎先を持ち上げた。


「大変よくできました」

 腹黒王子の低くて甘い声と共に降ってきた三度目のキスは、まるで王子様からの(たまわ)りもののようなキスだった。
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