清くて正しい社内恋愛のすすめ
「え……」

「ただの恋愛ごっこだったら他の人でいいでしょう? なんで加賀見さんなんですか!? 加賀見さんを(もてあそ)ばないでください」

 白戸は次第に語気を強めて身を乗り出すと、まくし立てるように穂乃莉に迫ってきた。


 ――いや……。ある意味、弄ばれてるのは私なんですけど……。


 加賀見の腹黒な顔つきを思い出し、穂乃莉は苦笑いを浮かべる。

 白戸の目に映っている白馬の王子様のような加賀見と、穂乃莉の知っている腹黒王子の加賀見が、もはや同一人物だとは思えない。


「あの、白戸さん。ちょっと落ち着いて……」

「私は十分落ち着いています。自分の気持ちを伝えているだけです。私は加賀見さんに本気なんです!」

 白戸はそこまで一気に言うと、下を向いて涙をこぼし出した。


 穂乃莉は小さくため息をつくと、デスクに置いていたティッシュペーパーの箱を取り、白戸に差し出す。

 白戸は小さく頭を下げると、それを一枚取って涙をぬぐった。


 お嬢様として育った穂乃莉は、子供の頃から常に周りに守られて過ごしてきた。

 だからこんな風に、他人に負の感情をぶつけられたのは初めてだ。
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