清くて正しい社内恋愛のすすめ
 でもある意味、ここまで人を好きになれるなんて、幸せなのかも知れない。

 穂乃莉は鼻をすする白戸を見つめながら、自分はどこまで加賀見と本気で向き合えているんだろう、とぼんやりと考えていた。


「私には、加賀見さんしかいないんです……」

 白戸が小さくつぶやき、穂乃莉はため息をつくと下から白戸の顔を覗き込んだ。

「ねぇ、でも加賀見はあなたの好意を断ったって聞いたよ」

 穂乃莉の言葉を聞いた途端、白戸ははっと顔を上げる。

「そんなの、嘘です。キスだってしてくれました」

 白戸は両手をグーにすると、胸の前で振りながら真っ赤な顔を穂乃莉に向けた。

「キスって……」


 ――それ右手にでしょ?


 穂乃莉は言いかけた言葉を飲み込む。

 なんとなく、それを言ったら白戸のプライドを傷つける気がした。


「とにかく。私はお二人が真剣に付き合ってるとは思ってません。失礼します!」

 白戸はそこまで言うと、顔を手で覆いながらフロアを飛び出して行った。


 バタンと扉の閉じる音が響き、その後には急激にシーンとした静寂が訪れる。
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