清くて正しい社内恋愛のすすめ
　ふと目線を上げると、都会の真っ黒な夜空にポツンポツンと小さな星が瞬くのが見える。

　本店の中庭から覗く満天の星空とは全く違うこの真っ黒な夜空は、まるで今の自分の心の中を反映しているかのようだった。


「加賀見……」

　穂乃莉は小さく声に出す。

　どうしてこう感傷的になっている時は、無性に加賀見の顔が見たくなるのだろう。

　穂乃莉の頭痛の原因だったはずなのに……。


「呼んだか？」

　すると突然、背中で低い声が聞こえ、穂乃莉は慌てて後ろを振り返る。

　はっとした穂乃莉の目の前に立っていたのは、にんまりとした顔を覗かせている加賀見だった。

　加賀見はここまで走ってきたのか、腰に手を当てると、呼吸を落ち着かせるようにゆっくりと息をしている。


「ど、どうしたの！？　直帰したんじゃなかったの！？」

　穂乃莉はそう言いながらも、どんどん視界がぼやけてくるのを感じていた。

「課長から連絡もらってさ。お前がまだ一人で企画書書いてるからって」

　加賀見は穂乃莉の前まで来て、頭に大きな手をそっとのせると、瞳を潤ませる穂乃莉の顔を覗き込む。
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