清くて正しい社内恋愛のすすめ

二人きりの出張

「それでは、営業担当が参りますまで、こちらでお待ちください」

 案内してくれたフロントの女性が、配慮の行き届いた様子でそう言うと、丁寧に頭を下げる。

 穂乃莉は加賀見と共に、広々としたロビーの一角にある大きなソファに腰かけると、辺りをぐるりと見渡した。

 あれからあっという間に一週間が過ぎ、今日は早朝から飛行機で移動して“東雲リゾートホテル”まで来ていた。


 白戸に宣戦布告のように感情をぶつけられた夜、穂乃莉は自分の気持ちをはっきりと自覚した。

 だから退職までの残りの日数、加賀見と過ごす一秒一秒を大切にするために、余計なことに気を取られることをやめたのだ。


 そう思ったら白戸のことは自然と気にならなくなったし、何より企画書の準備が大変で、それどころではなくなったというのも事実。

 あの後も加賀見とは何度も打ち合わせをし、具体的なツアープランを練った。


 そして、出張の日程が決まったと知って悲鳴を上げたのは、穂乃莉だけではなかった。

「なんちゅータイトな日程で、出張設定してんのよ!」

 スケジュールを聞いた玲子の叫び声が、フロア中に響き渡る。
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