君の心をみせて
せっかく少し落ち着いた心臓がまた音を立て始める。

「安心してよ、家って言っても普通におしゃべりしたり、お菓子食べたりするだけだから」

「うん…」

「今日はやめとこっか」

私が俯いて考えていると上から声が降ってきた。

〔無理させたくない〕

「行く!行きます!」

思わず出した声は思ったより周りに響いた。

近くの知らない人が怪訝そうな顔でこっちを見る。

私は恥ずかしくなって少し下を向く。

「っふっ。行こっか」

右手を引かれて歩き出す。

私よりも15cmくらい背の高い啓斗の大きい後ろ姿を見つめた。

少しして、小走りで彼の横に並ぶ。

ほのかに熱を持った頬を秋の風が撫でた。
< 64 / 91 >

この作品をシェア

pagetop