添い寝だけのはずでしたが
「安城さんだよね!? 俺、同じクラスの宇治山(うじやま)。転校早々授業をサボったんじゃないかってクラスメイトが騒いでたけど」
 

そんなことになってたんだ……。
 

葵さまが心配していたかは分からないけど、そう思われていたとしたら探すことすらしないよね……。


「隠れていたわけでもなさそうだね。ここは鍵が壊れてるから、出入り禁止になってるんだ。俺はたまたま必要な物を取りに来て……」


「昼食のときに制服が汚れちゃって。ここで着替えてたの」


どうしてこの場所なのか不思議に思っていそうだけど、詳しく話すと親切にしてくれたあの女子生徒まで巻き込むような気がして黙っていることにした。


「そんな前からここに? お腹空いてるだろ。まだカフェが空いてるから案内するよ。ちょっとだけ待ってて、すぐに準備する」
 

軽くウインクをして、ロッカーの中から必要な物を取り出している。


その対応がまるで友達かのように自然で呆気にとられてしまった。
 

ずっと不安だったから、その優し気な雰囲気にホッとする……。
 

宇治山くんはとても優しそうな雰囲気の人で、カフェまで案内してくれると言われたけど丁寧に断り、カバンを取りに行くためひとりで教室に戻った。
 

葵さまはもう帰ったよね……。
 

疲れ過ぎて、今にも倒れそう。
 

自分の席で帰る準備をしていると、急に目の前が真っ暗になった。
 


ああ、もうスタミナ切れだよ……お腹空いた……。


ふらついたところを、誰かに抱きかかえられたところまでは覚えてる。


だけどその後は……意識が途絶えてしまった。






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