Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
甘辛論争しながら食べ終わり、練習再開。午後からは基礎練習に加えて全体練習。
「3曲目のコックピット、夏樹と恭也でどっちのパートするか決めて。」
練習始まってすぐ、涼にそう言われる。3曲目で演奏する「コックピット」。言った通り、本来この曲は前もドラム、ベース、ギター、キーボードの4ピースで成り立っている。が、AMITIEにはキーボードがいない。そこで、だ。キーボードのパートをギターで補おうか、と話していた。
運よく、キーボードパートをギターパートとしてアレンジして演奏している動画を見つけたので、それをコピーすることにした。しかし、
「今更だけど速すぎ。」
2人でもう一度聞いたのだが、まぁ難しい。元のギターもそうだし、キーボードパートをギターに変換させたメロディーも高難度だ。
「この動画だと、キーボードパートがメロディーで、ギターがコードとリズムだけれど。複雑すぎる。」
この曲を弾いているのはプロ。対する俺らは高校生。ギター歴5年と8年。弾けるにも限度がある。ちょっと簡単にしてみる?けど、盛り上がりに欠ける。
「難易度的には同じくらいだけど、恭也はどっちがいいとかある?」
「……俺は、元のギターパートがいいな。コード進行なら得意だし。それにキーボードパートは主旋律、単音勝負だろ。それなら夏樹の方が適任だ。」
なるほどな。コード進行とリズム刻みが得意な恭也がギター、細かいアレンジが得意な俺がキーボードパートってことか。
「それでいこう。」
メモを書きながらパートを話す。恭也は頭がいいから全体の不安要素を解決したり曲全体の尺を考えながらアイデアを出してくれる。それを実際に音でイメージして書き起こしていくのが僕の役割。んー。難しい。いつもの編曲作業とはまた違うな。
「それからここ。本当はソロだけれど、2人で弾かない?」
差したところはギターパートでラスサビ後のソロの箇所だ。
「ハモらせるってこと?」
「そう。本番って体育館だろ。特別音響がいいってわけじゃない。ここは一番の見せ場だから遠くまで音が響くようにしたい。」
「でも、ここめっちゃ難しいよ?ミスらず合わせるって至難の業じゃない?」
ここは曲の中で一番の見せ場でもあり一番の難所だ。成功したら歓声ものだけど、失敗したら…沈むよね。
「何、ビビってんの?(笑)」
はぁ?
「夏樹ならできるだろ。」
ニヤついてこちらを見る恭也。
「…合わすよ。そっちこそミスんなよ。」
できるって最初から決めつけんな。どうなるかまだ分からないんだから。適当なんだか知らんけど。師匠にもアドバイスをもらって完成させる。その内容を涼と怜斗に報告。
「このラストのところ合わすのかよ⁉できんの?」
思った通り驚かれた。
「リスクはあるけれど、上手く音が嚙み合えば相当アガると思う。」
「すげぇな。じゃ、頼むぜ!」
あとはひたすら合わせる。ボーカルの怜斗の状態を見ながら、ONボーカルとOFFボーカルを交互にやる。6月にフェスで弾いたもの、文化祭で披露する曲も含め、何曲か弾きながら調整。特に3曲目の「コックピット」は全員ほとんど弾けないから重点的に。