Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
18時頃。
「これちょっとヤバくねぇ?」
みんなで窓の外を見る。ひどい土砂降りだ。雨音で会話も聞こえにくい。空は真っ暗だし、どんどん雨が強まっている。雷もさっきから鳴りやまない。お昼までは少ししか降っていなかったのに、気がついたらこんな大嵐だ。
…この雨の降り方、ヤバい気がするのは僕だけかな。もしかしたらだけど、交通機関とかやられているんじゃ。師匠が奥から出てきた。
「お前ら、今日の練習はもうやめておけ。これ以上天候が悪化したら――」
ピッシャァーーーン‼‼
「うわぁっ!」
僕の悲鳴と同時に突然、店全体が暗くなった。
「停電⁉」
ほら見ろ、雷なんていいこと一つもないだろ。あー、真っ暗で何も見えない。怖い。
師匠は足早に店の裏に行った。その間にスマホのライトを起動させ、みんなで明かりを確保する。
「ダメだ。」
奥から師匠の声が聞こえた。ブレーカーやられたのか。すぐ回復するかな。
「あっ!」
怜斗がスマホを見て声を出した。
「電車、止まっているって…」
見せてきたのは電車の交通情報アプリ。
○○線●●線、強風のため運転見合わせ。△△線▲▲本線▼▼線、落雷と大雨により18時以降運休。ほぼ全部止まっている。
「見てこれ。警報出てる。」
今度は恭也がニュース速報の画面を見せてきた。静岡、神奈川、埼玉など関東全域に警報が発表されている。
「電車止まっていたら俺ら家に帰れないよ。」
3人の顔がどんどん不安の表情に変わっていく。
「お前ら家までどれくらいだ?」
「みんな大体1時間くらいです。」
それを聞いた師匠は少し考えると、
「この状態だと今から帰るのは無理だ。」
そう言った。多分、今の停電で交通機関も大変なことになっている。電車や地下鉄がやられているのなら多くの人はタクシーやバスを使う。この時間帯だったら帰宅ラッシュでめちゃくちゃ混むんじゃないか?え、こいつらどうなんの?
「夏樹、今日お前の家3人泊まれるか?」
「………はい?」
「だからお前の家にこいつら泊められるかって聞いてんだ。」
いや、聞こえなかったんじゃなくて内容に驚いて聞き返したんですけれど。…じゃなくて、
「と、泊まる⁉」
「ここから一番近い家は夏樹の家だ。俺も今日は車で来ているからそこまでなら送り届けられる。」
俺の家、車だったら30分くらいか。でも、
「師匠はどうするんですか?」
「俺の家は反対方向だから送ったらすぐ帰る。緊急事態だ。美奈子に電話してくれ。」
「わ、わかりました。」
お母さんに確認したところ、家的には問題はない、と。ただし、シェアハウスだということと俺とお母さん意外にあと何人いるのかをしっかりと伝えてほしいと伝言をもらった。その旨を伝え、3人に確認を取った。
「よし、お前ら親御さんに連絡したら荷物まとめろ。20分後には出るぞ。」
涼たちには楽器の片付けと簡易清掃だけ任せて、俺と師匠の2人で電源と空調、戸締りを全部確認した。停電で冷蔵庫の電源も落ちちゃったからいらない食材は処分だ。万が一のことも考えて、窓ガラスを養生テープで保護。
裏口と正面入口を施錠後、みんなで離れの駐車場へ向かう。
雨凄いな。本当に周りの音が聞こえない。傘もさせないくらい風も強い。車まで走っただけなのにもうびちゃびちゃ。
師匠はエンジンをかけると、大嵐の中、車を走らせた。