Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
夕飯も食べ終わって寝床の準備。押し入れから布団を3セットだしてリビングへ運ぶ。
「ごめんね、みんな雑魚寝で。」
「大丈夫!本当に何から何まで悪いな…」
さすがに3人分の部屋はないからリビングのソファとテーブルをどけて3人分の寝床を作った。ぶつからないように調整して、と。男子高校生3人…、うーん、寝返りは打てるだろう。
台所を片付け終わったとき、
「夏樹~、充電器借りられる~?」
怜斗が聞いてきた。充電器、学校用のリュックの中にあったはず。
「部屋行って取ってくる。」
持ってくるついでに僕もギター置いてこよう。
「夏樹って自分の部屋あるの?」
「あるけど。」
「いいな~。俺弟と共同部屋だからさ。一人部屋憧れるわ。」
涼が羨ましそうに言う。
「寝ると勉強すると音楽関係で使う以外用途ないけれどね。」
この家、一応全員分個室がある。でも一部屋が狭いからギターとか棚置いたらすぐ部屋いっぱいになっちゃう。2階の蓮の部屋なんか僕よりも狭いし。どうにか収納工夫して物を突っ込んでいる状態だもん。階段を登ろうとしたとき
「俺、夏樹の部屋行きたーい!」
……は?怜斗がトコトコと俺の後をついてきた。
「俺もー!何なら夏樹の部屋で語ろうぜ?軽音トークw」
涼も手を挙げる。な、何でそうなるっ⁉
「え、今か、らってこと?」
「そう!まだ9時だぜ?夜はこれからだろ⁉」
いやいやいやいやいや待て待て待て待て。
ちょっと待て。夜はこれから?
うん、そうかもしれないけれどさ。ちょっと待って!
僕の部屋、今……、
えぇ、どうしよう。
「~!ちょっと待って!」
急いでソファにいる蓮のところに行く。
「ねぇ部屋の鍵貸して。」
「え、何で。軽音トークしてくりゃいいじゃん。」
知らん顔でケロッとして言う蓮。何で分かんないんだぁ~
「僕の部屋の状態。」
「?部屋の状態って。……ハァっ‼」
気づくの遅せぇ。
「使え。」
「ありがと。」
鍵を受け取ると涼たちに
「分かった。でも五分待って。今部屋片づけるから。」
そう言ってすぐに自室に向かった。
いや、軽音トークすることはいいんだよ。ただ、僕の部屋は……
がちゃ!
部屋全体が作業部屋なんだよ!
録音は簡単なものならこの部屋で録っている。クローゼット内に防音材を二重に敷き詰めて、ホームセンターで買ったラックを改造してレコーディング台にしたんだ。昨日までMIX作業していたから机の上には機材が出しっぱなし。あいつらがシャワー浴びているあいだに片しておけばよかった。でもまさか部屋に行きたいなんて言い出すとは思わないじゃん。
録音用マイクとミキサーと作業用のパソコンを片付ける。大きい物は蓮の部屋に移動。あ、エフェクター…はこのままでもいいや。コードはクローゼットに全部入れちゃえ。これを片付ければ普通の部屋。
「夏樹~?」
すぐそこで怜斗の声がした。もう部屋前まで来てんのかよ!
がっ!
クローゼットから飛び出たケーブルを奥に押し込んで鍵をかける。よっしきっかり5分。
「っどうぞ。」
部屋を開けた。