Dying music 〜音楽を染め上げろ〜





次の部活。



ここはコードチェンジで、











―あ。











途中で指が止まってしまった。







あれ、手が…おかしい。


震えている。


……何で。



攣ったか?





「夏樹、どうした?」




心配そうに僕を見る。


「ごめん。今日ちょっと調子悪いかも。気にしないで。」


焦りがバレないように落ち着きを保ちながらそう答えた。



「そうか?体調悪かったら言えよ?」



そこからは特別大きなミスはなかった、納得のいく演奏は出来ずに終わった。



「5分休憩~」



一人で部室を出ると廊下奥の窓際に行った。




「…何で。」





まずい。前よりも悪化してした。全然弾けない。

どうしてもできない。

家でやったときは出来ていたじゃんか。

途中で手を止めるなんて今まで一度もなかったぞ。

これ以上悪くなったら確実にみんなの足を引っ張る。





すぅぅーーーっ。




深呼吸をして手の震えを落ち着かせる。


リセットだ、リセット。落ち着け。




高校生としての夏樹。

ギタリストとしてのナツ。

歌い手としてのCyan。

3足の草鞋を履いている現在。




この中のどれか一つでも脱げたらいけない。


前に進み続けるんだ。


脱げたら、


居場所がなくなってしまう。

























……休憩時間終わっちゃう。戻らないと。そこから時間になるまで練習と本番の立ち位置を確認してこの日は終了。



「今日はここまでだ。下校チャイムなる前に出ようぜ。」


家に帰ったら動画編集の続きしないと。来月分ストック、2本は作りたい。


「―――き」


俺のステージとかは結局どうなったんだろう。師匠にあとで連絡して確認しよう。


「――き?」


来月は文化祭があるからステージのスケジュールも組みなおして、それからー







「夏樹!」














強く名前を呼ばれ、驚いて振り返った。



「…ごめん。どうした?」

「あ、いや。このあとコンビニ行くけれど来るかなって。」

「行く。もうちょっとで支度終わる。」



何回か呼ばれてたな。考え事していて気づかなかった。怜斗がアンプを片付けながら



「夏樹大丈夫?疲れてねぇ?」


と聞いてくる。


「大丈夫だよ。」


僕が焦っていたらそれが周りに伝染する。

やる気やコンディションに繋がるから絶対に悟られないように。

平然を保って、いつも通り、冷静に。



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