Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
「恭也、この箇所まで合わすのか?」
ギターソロの合わせの部分、一番苦戦しているところだ。
「そのつもりだったけど。」
「ここ、僕が半音か1オクターブズラした方がいい気する。」
僕が指摘したのは音が重なる部分。いくら合わすからといって完全一致じゃ音を増幅させているだけ。それはボリュームを上げればできること。だから、せっかくツインで弾くならちょっと変化球入れたほうが曲として盛り上がるんじゃないかって思ったんだ。
「そうしたら、夏樹がラスト合わせにくくなるだろ。ミスるぞ。」
「僕はミスんないよ。」
多少、指の動きが複雑になるだけであって、そのくらいなら問題はない。だが恭也は、
「本番ミスんないって確証はないだろ。万が一お前がズレたら最後のリズム合わなくなるんだぞ?」
と、なかなか納得しようとしない。確証はないかもだしれない。その通りだけど守りに入ってばかりじゃこの先何もできなくなる。少し考えをずらした方がいいじゃん。
「全部一緒じゃつまらないじゃん。アレンジだってもうちょっと組み込んでもいいと思うし、恭也だって……」
「もういい分かった。」
恭也は僕の言葉を遮るように口を挟んだ。
「夏樹の好きにしろよ。」
そう言うとヘッドフォンをつけて一人で練習し始めた。
……何なのあの態度。最近はいつもこんな感じだ。
考えが合わない。
変な緊張感とピリツキ。
2人で練習するってなっても、恭也は最初だけ一緒に確認してそのあとすぐに個人練習に移ってしまう。
本来はもっと合わせるべきじゃないか?
第一、恭也が目指している完成形もイマイチよく分からない。
イメージが共有できていないんだ。
「ねぇ…」
「………」
呼びかけにも応じず。
一人でイラついてんじゃねぇよ。
こんな状態で文化祭できんのかよ。
不安と苛立ちばかりが募る。