Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
そんなある日―夏樹が入部して少し経った頃、聞き覚えのある曲を耳にした。
「ハードロックとか聞くんだ。」
それは俺の好きなバンドの曲だった。夏樹は座ったまま俺を見上げた。
「うん。何ならハードロックが一番好きだよ。」
「………じゃあルーレットっていうバンド知ってる?」
「知ってる。『missyou』だろ。」
驚いた。ルーレットってバンドはイギリスのマイナーバンドだ。涼や怜斗すらも知らないバンドをコイツが知っていた。それも代表曲まで。今まで曲のジャンルがこれほどまで合う人に会ったのは初めて。
その時、少し好奇心が湧いた。
「今それ弾ける?」
「弾けるけど。」
「弾いて。」
聞きたかった。夏樹のギター単体であの曲がどう奏でられるのか。
「え、なん」
「いいから弾け。」
俺のリクエストに夏樹は弾きだした。
♩♪♬~----
このギターサウンド。
全身に鳥肌が立つみたいな音。
悔しい。
何でこんなに弾けるんだと腹立たしい。
でも、それ以上に。
素晴らしい音。
合わせてみたい。
俺の音と合わさったらどうなるんだろう。
途中から夏樹の音に自分の音を重ねた。
「え、」
「いい。そのまま弾いて。」
夏樹は一瞬戸惑って音を外したが、すぐに立て直した。レスポールの音とストラトの音が絶妙に合わさる。
♩♪♬♩♪~~
夏樹は俺の弾く部分に合わせてその場でアレンジを組み込んできた。他人の音を邪魔せず、逆に引き立てる。
…やっぱり上手いんだな。
「急に悪かった。」
弾き終わった後そう言った。自分でも変なことした。急にセッションし始めるなんてどうかしてる。その場から離れようとしたとき、
「上手いね。」
そう言われた。
「この曲のBメロ完璧に弾ける人初めて見た。」
「俺もこの間できるようになったばかりだ。お前にとっちゃすごくも何もないだろ。」
「ルーレットの3rdアルバム持ってる?」
「いや。」
「次それ貸す。その中に『right』って曲あるから聞いてみ。多分好きだよ。」
もともと俺は誰かと競ったり争うことに興味がなかった人間だ。
それが、夏樹と出会ってから「負けたくない」と思うようになった。
練習量も増やして、苦手なアレンジも入れるようにした。
俺は涼や怜斗みたく、真っ向コミュニケーションはできない。
だからこの距離感が丁度良かったんだ。