Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
「あれ、夏樹終わったの?」
下に行くとお母さんがテレビを見ていた。
「休憩しにきた。」
お湯を沸かしてインスタントのカフェオレを作る。お菓子とコップを持って、そのままお母さんの隣に座った。
「文化祭出るんでしょ?見に行ってもいい?」
「…うん。プログラム発表されたら教えるね。」
文化祭…まだどうなるのか分からないけれど、とりあえずそう言った。そしてそのままお母さんの肩にもたれかかった。
「どうしたの?今日は珍しく甘えたね。」
「………ねぇお母さん。」
「なぁに?」
「僕ってギター上手?」
急にどうしたの?とお母さんは笑った。
「上手よ。夏樹のギターはね、聞いていてとても楽しいの。」
「どういうこと?」
「わくわくする音。歌も一緒よ。夏樹は聞いている人に訴えかけるような歌い方をする。あなたの歌声は心を動かすの。」
…僕が小さい頃からMidnightに通えていたのはお母さんのおかげなんだよな。小学生のときは危ないからって、駅まで送り迎えしてくれて。ギターの勉強も一緒にしてくれた。それが今のナツやCyanとしても活動に繋がっているんだ。
「………そっか。」
ちゃんと人の心に届いていたことにほっとした。不安になってた。届いてなかったら活動している意味がなくなっちゃうから。
「無理に話してってわけじゃないけれど、何かあった?」
その様子を見てお母さんが聞く。さすが母、気づくの早いや。
「部活のメンバーと喧嘩した。」
「喧嘩?」
そのワードに顔が険しくなる。
「仲間だったから、余計に落ち込んでいた。」
「そう。」
謝りたいけれど、それができなくてモヤモヤしてた。コードに話したあと、恭也や涼たちと顔を合わせる場面は何度かあったのだが、やっぱりどうしていいのか分からなくなってずっと話さずにいる。部活にも行っていない。
するとお母さんは俺をぎゅっと抱きしめた。
「最近ね、お母さん嬉しかったの。」
「何で?」
「夏樹がお友達を家に上げることなんて初めてだった。あの子たちとお話しているときの夏樹、とっても楽しそうだったよ。笑い声、下まで聞こえていたんだから。」
「大丈夫、その子もきっと夏樹と仲直りしたいと思ってるから。」
「………………うん。」
「早く聞いてみたいなぁ~!お母さん、あなたたちの演奏まだちゃんと聞いたことないんだから。」
「…みんなめっちゃ上手くて、かっこいいよ。」
「楽しみね。」