Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
カランコロン。
「ナツ!久しぶり!」
店に入ると早々に佐々木さんに声をかけられる。
「なになに~ナツくん来たの⁈」
そして奥から甲高い声を上げて出てきたのは杏樹さん。抱きつかれてピンク色の髪の毛が顔にかかる。ヘアオイルの匂いかな、めっちゃいい香りする。
Midnight はライブハウス兼音楽スタジオ。このストリートでも人気のお店。杏樹さんと佐々木さんはここでバイトしてる。ナツっていうのは僕のここでの名前かな。すると、
「ナツキ。」
名前を呼ばれて振り返る。髭を生やしたイカツイ人。この人が、長澤直次《ながさわなおつぐ》さん。僕の音楽の師匠。
「Aスタもう入れるぞ。バンドメンバー来たら声かける。」
淡々と必要事項だけいうとカウンターの方へ戻ってしまった。2階の A スタに入って準備開始。
ガチャ。
しばらくすると師匠がプレートを持って入ってきた。わ、ナポリタンだ。美味しそう。
「いただきます。」
今日何も食べてきていなかったから余計においしく感じる。このMidnight、ドリンクだけでなく、軽食も提供している。手伝いで何品か作ったことはあるんだけど、師匠ほど上手く作れない。コーヒーとかも種類全部覚えていないし。
「そういえば、昼間のメッセージ何ですか?喉大丈夫かみたいなやつ。」
食べながら師匠に聞いた。
「あー、あれか。」
「いつもはそんなに気にかけないじゃないですか。」
「お前の喉が心配でよ。」
やっぱり?
「前回のステージで歌い方無理してそうだったからな。お前潰れると高音ガッサガサで汚くなるだろ。」
そこまでディスる?へこむんですけど。
「それでぶっ壊すより前にしばらく止めておこうと思った。だからあんまり出さなかった。」
前回のステージ立った時、珍しくシャウト系歌ったんだけどそれでやられたんだ。そのあと声出なくて大変なことになったんだっけ。あれは選曲ミスったよね。シャウトもそこまで上出来ではなかったから、喉潰しただけだった。
「まだ声量少ないですかね。」
「いや上がってる。喉使い方はもうちっとだな。」
喉ってビブラートかけたりミックスボイスだすのに重要なんだよ。自分でもボイトレしてるんだけれどまだまだか。食べ終わってギターの準備も終えると師匠がまた話してきた。
「動画の方はどうだ。」
「ぼちぼちですね。先週も1曲 cover 上げました。」
「あの高低差難しいって言っていたやつか?」
「はい。」
「再生回数は?」
「今、多分……40万回くらいですかね。」
「ほう。」
いや、あの曲普通に難しいからな。冒頭から息継ぎないし、口は回らないし。サビも何パートも組み込んだんだから。映像もいつもよりトラジジョン多くて発狂しそうだったよ。できたからおかげで順調に伸びているけど。