Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
観客席から声が響き渡った。
「アンコールっ!アンコールっ!」
そしてその声に釣られるかのように観客たちが次々にアンコールを要求し始めた。
…アンコール…?アンコールって…。
予想にもしていなかった展開に全員で顔を見合わす。全員、同じ表情だった。突然のことに驚いている。怜斗なんて血の気が引いている。涼が咄嗟に生徒会の人に目線を送るも気づかない。
……想定外すぎる。全く何も用意していないよ。
「アンコールなんて聞いていないぞ!」
恭也が小声で聞く。
「俺だって!」
涼もいつになくテンパっている。まずい。非常にまずい。そんな僕たちに対して観客は手を叩いてアンコールを要求する。
…「アンコールないです。」
この場でそう言ったらどうなるかは全員分かっていた。涼は怜斗に駆け寄った。
「1分MC繋いで。全員弾けるやつ考える。」
「わ、わかった!」
無茶ぶりで怜斗にMCを任してその間に3人で話す。申し訳ないがこちらで決めてしまおう。
「落ち着こう。フェスでやったやつなら。地上線上の彼方かカミナリロジック。」
僕がそう提案する。セッションでやったものはみんな大体1サビまでしか弾けないんだからフルで弾けるのなんてこれくらいしかない。
「地上線上の彼方の方がバンド曲だから知名度はある。」
「長さ的にもちょうどいいもんな。」
「俺がいつも通りカウント取る。ラスサビの入りだけ注意して。」
2人して頷く。涼はステージ中央まで行くと怜斗に耳打ちをした。この間約30秒。客の盛り上がりが冷めないギリギリラインだ。
地上線上の彼方は…久しぶりだけど何とかなるだろう。怜斗は多少ミスっても歌が何とかなればそれでいい。涼はたまに叩いているから大丈夫だ。恭也に関してはもうなんもねぇや。あいつはできるから。