Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
歓声が溢れるなか、マイクを受け取ってステージに上がった。
「………あ~、皆さんこんばんは。Cyanです。」
――「Cyan~!」
――「久しぶりぃ!」
観客が手を挙げながら名前を呼ぶ。みんなアガりすぎじゃない?あと、今日人多い?
Midnightはステージとしては2つあるんだけれど、どちらも規模は小さい。だから客が多いと年中問わず熱気がエグイ。おまけにこっちは仮面付けて歌うモンだから暑いったらありゃしない。マイクスタンドを調節して、エフェクターなども整えた。
「今日はお久しぶりってことで3曲歌わせていただきます。」
……さぁ、ここからはCyanの世界だ。Cyanだけのライブなんだ。
パッとステージの照明が暗くなる。
1曲目、「クラッシュエンド」。
♪~♬♪~♪♬-~♪
原曲はキーが高め。でも裏パートでは低音が曲調全体を支えているパワフルな曲。
――「お前は何に怯えているんだ。」
――「殻に閉じこもって人生終わんのか?」
――「人の目なんか気にすんな。常識全部ぶっ壊せ。」
サビのこの歌詞が人気なんだよな。ひっそり生きるんじゃなくて自分らしく生きてみろよって。
歌い終わったあと拍手が鳴り響いた。
間髪入れずに次の曲「HOW ARE YOU」。
クラッシュエンドとはテイストが全然違う。カレカノが別れるんだけれど、結局お互い依存しあっていて忘れられないって歌。普段はこういうのは歌わないんだけれどリリースされてからリズムにはまった。だから一週間くらいで全部覚えちゃったんだよね。
――「どうしてねぇどうして?あたしが一番じゃなかったの。」
――「他の女に手を出すアンタは嫌いだけど。」
――「あたしを優しく抱くアンタはまだ好きなの。」
この曲は大人っぽいからいつもより若干吐息を入れつつ、しっとりさを出して歌う。たまにちょっと過激な歌詞が入ることもあるけれど、こういう人間関係のドロドロした部分を表している曲ってすごく惹かれる。
暑い…
額に汗が滲む。2曲目が終わるころにはお客さんもみんな高揚していた。ここで一旦MCを挟む。
「……はい。えー、『HOW ARE YOU』は先週リリースされたばかりなんですけれども。……みなさんは聞きましたかね……?」
――「まだー!」
――「聞いたー!」
「半分半分くらいですね。ストリートの角のショップに在庫まだあるらしいんで……よければぜひ聞いてください。」
よし、喉も戻ってきたかな。
「じゃあ最後いきますか……」
軽く咳ばらいをする。
「FirstKing」
♪ーー♬♪♪♬♪~~
今日歌う3曲の中で一番激しい曲。感情を乗せてもまだ足りないくらい。今日、保健室で弾いたときからやりたいなって思ってたからトリはこれにした。
――「俺がこの世界の王者。」
――「てめぇら愚民は全員膝つけ。」
――「俺に従え仰せのままに。」
この曲は細かなテクニックどうこうってよりは感情任せって方がいいんだよな。歌詞がストレートに伝わるし。というか、この歌詞が最高なんだけれどね。
この曲を、作った人。パワフルな低音、空を裂くような高音。動画投稿サイトに投稿すればすぐに100万回越え。歌い手界の先陣を切っている男性歌い手、サクト。
どんなふうに曲を作ってどんなふうに歌っているんだろう。何百回も思ってきたことだ。
サクトさんが作る曲はジャンルがバラバラ。男女の切ない恋愛をもとにしたラブソングから、地獄の果てまで人を恨むかのような怒り狂った曲まで。感性が豊かでないと絶対に作れないと思う。
♪♬♪♪♬♪---‼‼
ラスサビで転調。一気に上げる。
歌うときはその曲に感情全部乗っけるんだ。
愛しさ、儚さ、悲しみ、怒り、憎しみ、葛藤感。
全部乗せる。
聞いている人の心を動かすことができるように。
「………ありがとうございました。」
全3曲のステージを終えて裏へ戻ると師匠が待っていた。
「お疲れさん。よかったぞ。しいていうならMixボイスだな。」
「はぁいぁ、」
なんだ、声が喉に引っかかった。ウケる。久しぶりに熱唱したからかな。
「声おかしくなってんぞ。飲み物用意してやるからスタジオで待ってろ。」
「ありがとございます。」
飲んだあとはそのまま帰路につく。まだ高校生だから家には遅くても10時半にはつかないと怒られちゃうからね。
「…………今日もちゃんとできてよかった。」