Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
水曜日の昼休み、3人は保健室へ向かった。
「やっぱり行きたくない。」
「右に同じく。」
しかし怜斗と恭也が動かない。それもそのはず、如月くんにアポイントメントを取っているわけでもないし、保健室の先生に許可を貰ったわけでもない。急に話したところで驚かれることなんか目に見えている。
確かになぁ。涼自身もそう思う。でも考えている時間もないし。
「よっしゃ行くか。」
「話聞いてた!?」
考えていても仕方がない。後ろで騒ぐ2人を無視して保健室に入った。
「失礼します。」
奥の方を覗くと、……いた。目が合った。如月くんは一瞬目を見開いたが、すぐに顔をそむけた。デスクの方から先生がやってきて
「あら、3人してどうしたの?」
と聞いてくる。事情を話すと、如月くんのところへ伝えに行ってくれた。しばらくしたあと、先生は「いらっしゃい」と3人を呼び、席を外した。
涼はそばにあった椅子に座った。…前には気づかなかったけれど意外と背丈がある。多分、怜斗と同じくらいだ。それに指が細くてシャープ。ギターやっている人の指だ。そして前も思ったことだが、顔が整っている。
挨拶から始めようか、自己紹介から?どうやって話し出そう、そう考えていたとき、
「何の用……?」
如月くんが先に口を開いた。
喋った……。あの中性的なしっとりとした声。突然のことに固まった。
「あ、えと、」
「要件……何かな。帰ろうとしてたから。」
「あぁ、すまん。」
名前やらクラスやらを軽く自己紹介をしたあとに本題に移った。
「俺ら今年、軽音楽部を作ろうとしていて、それで4人以上じゃないと部活動認定受けられなくて。それで、その如月くんギター弾いていたじゃん?入部してくれないかなって。」
「入らない。」
秒速で返事が返ってきた。うっそ、速くね?少しの希望も持たせてくれない。
「何で?」
恭也が聞いた。こいつさっきまで黙っていたのに。
「それ話す必要ある……?」
「理由は知りたいじゃん?」
「入りたくないってのが理由。自分の意思。」
「あっそう。」
恭也との会話で口調に不機嫌さが増す。この2人合わねぇな。涼がそんなことを思っていると
「バス出るから。」
と、如月くんはリュックを担いで出て行ってしまった。恭也が「ほらな。」とでも言いたそうな感じで目線を送ってくる。
何ていうか、ツンとしている人だった。バリア張っているっていうか。同じ年のはずなのに口調や雰囲気が大人びていてミステリアスな感じ。これは打ち解けるのに時間がかかるな。
そう思って保健室を出たとき、怜斗が衝撃的なことを言い出した。
「……俺、あいつのこと学校外で見たことある。」
「「はぁっ⁉」」