Dying music 〜音楽を染め上げろ〜



ステージを終えたあとそのままBスタへ。


やっぱり「ジャック」はムズイな。カッティングのテンポズレちゃった。アドリブはまだいいほうかな。あとで練習しないといけない。

今すぐ帰って練習したいけれど、その前にあいつらと話さないといけない。というか、どうしてそこまで僕にこだわるんだ。ギターが弾ける人なんて探せばいくらでもいる。別に部活として創設しなくてもいいことなのに。どういう考えなのか全く理解できない。




今日で諦めてもらおう。僕は今後一切、誰かとバンドなんて組まないって決めているんだからな。





裏口へ行くと3人が待っていた。数メートル離れたところで足を止める。



「あの、いつもこのためにここに?」

「そうだよ。」

「すごすぎて頭が追いつかなくて……」

「そんなことはどうでもいい。」



淡々と答える。さっさと本題に入ろうよ。


「………また勧誘?」

「そうだよ。」


やっぱりな。


「あの演奏びっくりした!俺、一緒にやってみたい!絶対楽しいよ!」



………………またこれかよ。みんなで弾いたほうが楽しいっていう根拠あるのかよ。つーか、既に出来上がっている輪に俺を入れるメリットって何?逆に乱す可能性の方がはるかに高いし、まとまらないと思うんだけれど?




「なぁ、バンド一緒にやってみないか?」






…一緒一緒ってうるさいな………………。


どうせ形だけの代物だ。

僕のこと何も知らないくせに。

どうせ、気持ち悪がるくせに。

捨てるくせに。

すごい?

だから?












「だったらなんだよ…」






「え?」


自分でも分かった。これ以上話されたら歯止めが効かなくなる。


「お前らはどうせ部活の人数集めしたいだけでしょ。」

「違う、人数とかそういうんじゃー」






「じゃあ何が違うんだよっ!?」







一気に感情が表に出る。もうやめてよ。過去を掘り返したくなんだ。



「この間から毎回毎回来やがって。マジでうぜぇんだよ!存在なんてどうでもいい。ただの道具!そうでしょ?使い終わったら捨てる。毎回そうだ……。お前らだって同じだろうがよ!」



早口で捲し上げた。過去の出来事と、目の前で言われた言葉がイラつきと悲しみを増幅させる。頼むからやめてくれ。また繰り返されるだけ。変わらない。青春?思い出作り?そんなのお前らで勝手にしろよ…。何で他人である僕を巻き込むんだよ。



連帯感とか励まし合いだとか仲間だとか友情とか絆だとか。そんな言葉、大っ嫌いだ。














「ちげぇよ!」


リョウが声を張り上げる。



「道具とか、そんなんじゃねぇよ!俺らは別に人数とかじゃなくて如月ナツキって人間とバンドがしたくて誘ってんだ!」




……何だよ。


何で諦めないんだよ。

ほんと、消えろよ。

もうやめろよ。

絶対に上手くいかない。

どこかで終わる。

離れていく。

バンドとか所詮そういうもの。

まとまらないとただの雑音だ。

ゴミになる。

音楽やってるなら分かるだろ。何で。



「最初のギターの音聞いたときからずっと!あの音が頭から離れない。どうやったらこんな演奏できるんだろうって。俺らと合わさったらどんな音になるんだろうって。

さっきのステージもそうだ。めっちゃパワフルで、でも繊細で。なんつーか、……言葉にはできないくらいすごかったんだ。ただ、めちゃくちゃ上手なのに何か足りていないっていうか。」


足りない……?






「楽しさが足りていないんだと思う。」





楽しさ?バカ言うな。僕は好きでギターをしているんだぞ。好きだから楽しいに決まってる。


「人を惹きつける演奏ってのは確か。でも……寂しい演奏。音に居場所がないように感じる。」



音の居場所……。


なんでそんなことに気づくの。

寂しい、居場所がないって……。


さっきから頭が回らない。ウザいし煩わしい。でも言っていることが的を得ているようでぐるぐるする。






「俺らがその音の居場所をつくるから。」





真っすぐな眼差しを向けられる。



「今までしつこく誘ってごめん。でもこれが最後。一緒にバンドがしたい。」



そうリョウは頭を下げたあとそのままレイトと一緒に帰っていった。残るはキョウヤ。






「…………アンタも帰れよ。」



言い放つとキョウヤは無視して僕の目の前に立った。




「確かに高校生のただの部活かもだけどさ、案外面白いと思うよ。」



……一番つまらなそうにしていそうなお前がそれ言うのかよ。説得力ねぇな。



「毎週月曜と木曜、2階の多目的小ルームでしてるから。」


それだけ言うとすたすた歩いて行った。

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