Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
「じゃあさ、夏樹、俺にベース教えてくんね?」
帰り道、怜斗にそう言われる。人に教えられるかな、と不安になりつつも引き受けた。あとは怜斗のベース歴次第だな。
「怜斗はどのくらいベースやってるの?」
「中2の終わりから始めた。受験でブランクもあるし、実質歴としては1年ちょっとくらいかな。」
1年はやってるわけか。じゃあ大丈夫。
「それくらいならまだまだこれから伸びるな。」
「やったぁ!」
その場で怜斗が飛び跳ねる。騒がしいやつ。子ザルみたい。
「怜斗は小さい頃からダンスしてて、大会とかイベントにも出てるんだぜ。」
「そうなんだ。」
「小学生のときからやってる~。得意なのはHIPHOP!」
そういうと歩きながら少し踊って見せた。おぉ、上手い。リズム感あるなら上達は早そう。
「恭也も教えてもらえよ。同じギターだろ。」
「別にいい。」
恭也が一番絡みずらい。だって、
「…恭也は、いつからやってるの。」
「小6。何?マウント?」
「聞きたかったら聞いたんだ。いちいち喧嘩吹っ掛けてくるな。」
「はぁ?」
は?何煽ってきてんの。ムカついて言い返す。絶対合わない。…マジでこいつ一番腹立つ。何だろう、なんかこう、イライラする。
駅前の通りで涼・恭也とは別れる。2人はチャリ通。怜斗はバスだから途中まで一緒。
「夏樹って学校まで往復2時間かけて通ってんの!?」
「うん。バスと徒歩で。」
すごいなぁ、と怜斗が言う。
「あれ?でも夏樹の家のあたりなら電車通ってね?学校の最寄りからだったらもっと早く着くんじゃ?」
電車の方が速いのは知ってる。本当は電車使えば40分で着くけれど、理由があって乗っていない。
「……電車あまり好きじゃなくて。ラッシュ重なるの嫌だし、バスの方が定期安いから。」
それより、
「怜斗って本当に何でも聞いてくるんだな。」
僕が聞く。だって初対面のときも指さしてきたし。距離が最初から近いっていうか。彩音もそうだったけど怜斗の方がガツガツくる感じ。それを聞いた怜斗は焦りだした。
「いや、これでも気を付けてはいるんだよ!?会話続けようとするとプライベートなこと聞いちゃうだけで、」
目をキョロキョロさせて早口になる。……面白いんだか何なんだか。
「…子ザルみたいだね。」
「こ、子ザル!?」
「ただいま。」
「おかえり~。久しぶりの学校はどうだった?」
お母さんが奥から出迎えてくれた。
「疲れたけど、楽しかったよ。」
「そう、よかった。」
「あのね、軽音楽部入った。」
靴を脱ぎながら言う。
「軽音楽部?いいじゃない。お友達できた?」
「んー、まだ分かんない。もうちょっとかかるかな。」
「そう。手洗って着替えてきな。夕飯食べよう。」
「うん。」
今日は疲れた。ほぼ1年ぶりの授業だったし、クラスの子からは質問攻めだし。学校では休んでいた分の提出書類やらプリント類を職員室まで出しに行って。先生の顔なんか分かんないから名前間違っちゃうし軽音楽部のあいつらはキャラ濃すぎだし。