Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
「………………なんで?」
招集所で僕を見かけた怜斗。
「なんで夏樹が選抜出てんの!?救護って言ってたじゃん!」
事の経緯を話すと……。
「ついてんね、お前。」
「できることなら出たくはなかったよ。」
だって断れなかったんだよ。
「で、何走者?」
怜斗の問いかけに
「第3走者。」
そう答えた。その答えに怜斗の顔が引き攣った。そして一言。
「マ、ジ、か。」
……分かった。うん……次言う言葉は分かる。
「同じじゃん!」
ほらな!うっわ、ガチ?よりによって怜斗?はぁぁ、何それ嫌なんだけど。コイツの隣で全力疾走しないといけないのかよ。
「おい、態度に出てんぞ。最悪って顔してる。」
だって……。そんな中入場がかかり、列に並んだ。
「なぁ、」
怜斗が話しかけてきた。
「勝った方が新作フラペチーノ奢りってのどう?」
新作って…僕が飲みたいって言ったやつ。
「勝手に賭けにすんな。」
物で競争心煽るようなことしてくるなよ。
「でもさ、何か賭けたほうがやる気出ない?」
……はぁ、乗ってやるか。
「怜斗が勝ったらそこにワッフルつけてやるよ。」
「うっわ、さすが夏樹さん!」
煽るようにリアクションをする怜斗。……まぁ、頑張りますか。
……ぱんっ!
ピストルがなって第1走者が飛び出した。
お、赤軍2位じゃん。やっぱ男子先発だと速いな。そのまま第二走にバトンが渡った。速い、けどちょっと危なそう。後ろに緑軍が迫ってる。
あ。越された。
3位まで順位を落としたままバトンが向かってくる。
この状況か。第3走は怜斗以外全員女子。涼香ちゃんほどの子がいなければワンチャン逃げれる。あとは怜斗。こいつどれくらい速いんだろ。どんどん迫って来る。一足先に怜斗が飛び出した。その直後僕も走り出す。
教えてもらったタイミング…ここ!………っよし!
バトンパスは成功。あとは全速力で走るだけ。怜斗の背中がすぐそこにある。
えぇ、怜斗速くね?足の回転どうなってんの。
越せない。あと30㎝くらいなのに。
あー、無理だ。未来ちゃん頼みます。
「お願い!」
「おっけ!」
そのあと未来ちゃんはぴゅーんとまるで新幹線のように走って、すぐに緑軍の男子を追い抜いた。うわぁ、速い。そのまま2年生に繋げる。
結果はー。
「おーい、お疲れぇ~」
涼が手を振る。
「接戦だったね!夏樹めっちゃ速かった。」
色葉が水筒を持ってきてくれた。
「全然。」
「でも赤軍2位だよ!」
そう。惜しくも1位には届かず、赤軍は2位フィニッシュ。怜斗たちは3位。最後の最後間まで勝敗分からなかったくらい白熱していた。先生たちも叫んでいたし。
「それはみんながあとから挽回してくれたからで……」
「夏樹ちゃんが距離詰めてくれたおかげだよ!」
未来ちゃんにそう言われ、ちょっと恥ずかしくなった。あ、そういえばあの約束。
「怜斗、約束ちゃんと守ってね。」
そばにいる怜斗にそういう。
「~~!わぁかったよ!フラペチーノだろ!カスタムでも何でもしろよっ!」
怜斗は若干悔しそうに唸った。やった。練習帰りに奢ってもらお。カスタム何にしよう。
そっからは閉会式。赤軍は総合順位3位だった。最後のリレーがいい加点要素になったのかな。
「夏樹ちゃーん!」
閉会式後、遠くから名前を呼ばれて振り返る。そこには手を振りながらゆっくり歩いてくる涼香ちゃん。そして
「走ってくれてありがと~う~!マジでありがとぉ~!」
と、抱きしめられる。その様子を見てクラスの子たちが笑う。何か恥ずかしいな…。
少しずつだけれど、生活に慣れてきた気がする。こういう学校行事一つ一つ、どうでもいいような会話にいちいち感動している自分がいる。
大っ嫌いでトラウマの塊だった学校という場所が、ちょっと楽しいと思える。
1年前では考えられなかった感情。
灰色だった生活に、色がつき始めている。
新しい、知らない出来事が次から次へと起こる。
何ていうんだろう……新鮮さっていうのかな、面白いなって思う。
………………………
「夏樹~まだ起きてるの?今日は早く寝て疲れとりなさーい。」
「はーい。」
寝たいのは山々だけれど、今すぐ文字に書き起こさないとこの感情を忘れてしまう。
覚えているうちに書かないと。