Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
体育祭から1週間がたった日、とある曲が投稿された。
作詞作曲、Cyan。
曲名は「change of mind」。
ピアノ主旋律の穏やかなメロディー。そこにアコースティックギターの柔らかな音色とCyanの歌声が乗っている。
MVは灰色の背景からだんだん青っぽく変化する仕様。
いつものアップテンポなイメージとはかけ離れた、弾き語りっぽい曲。
今までのCyanからは考えられない曲調と雰囲気。この新曲にコメント欄は騒がしくなっていた。
ー『今までのと違う!』
ー『優しい雰囲気も合ってる。』
ー『Cyanに何があった?』
しかもオリジナル曲を出すのは半年以上ぶり。そのことも相まって、再生回数はぐんぐん伸びた。
「コメント欄すげぇな。」
師匠が覗いてくる。
「思った以上に跳ねました。こんなに早く100万回再生超えるの久しぶりです。」
いつもとテイスト変えたのがよかったのかな。いつもは曲を作るときは楽器を多く使うんだ。ドラム、ギター、ベース……この三つは必須だ。音もめちゃくちゃ打ち込むし。シンセもバンバン入れる。
でも今回の主役はピアノとアコギ。それに加えてバイオリン、オルガンなどのクラッシック仕様。曲も3分以下と他の曲に比べ、短めだ。単調的な音に自分の歌声をダイレクトに乗せる。柔らかく歌いたかったから今回は座ったまま録音したのもポイント。クラシック調は初めての試みだったから、正解がよく分からないまま作った。最終的に納得のいく曲になったから後悔はない。
「お前がこんな優しいメロディーの曲を書くなんてな。どういう心境の変化だよ。」
そう聞かれ、黙り込む。
正直、自分でもびっくりしてる。
僕は自分の感情で歌うし、曲を書く。今この曲がバズっているから、流行りだから、そういうのはどうでもいい。自分が歌いたい曲を歌う。
だって今まで作ってきた、歌ってきた曲は全部暗いイメージばかりのものだった。
常にネガティブな感情を持っているから。
心に中にコップがある。その中に、その心の中に怒りや悲しみが溜まっていく。それが溢れた瞬間、感情が表に出る。
その時浮かんだ言葉、感情、想いを紙に書き殴って、ある程度できると曲が思いつく。そうやって生まれているんだ
泣きそうな声で、訴えかけるような声で、怒りや悲しみなど負の感情を詰めて歌っていた。
でも今回自分の頭に湧いたのは、「前に進みたい」って感情と「まだ怖い」っていう感情。
なんでこんな感情になってるんだろう。自分でも分からなかった。
「もしかしてアイツらか?」
師匠が何かを察したのかそう聞いてくる。
「…分からない。」
ただ、あの3人と過ごしていると、少しだけ昔の出来事を忘れられるっていうか。音が合わさるのって楽しいなって感じることがある。
それから心に思ったことを話した。
「今までの僕の生活は、灰色っていうか、ずっとつまらないような、怖いような、そんな感情でした。でも、ほんの少しの勇気で変われるんだなってちょっと驚いて。」
得体の知れない何かに怯えていた。原因は、学校なのか、音楽なのか、はたまた孤独なのか。ずっと日の当たらない洞窟にいるような気分だった。それが、少しずつ光のある方へ進んでいるような。……言葉ではうまく表すことができない。自分にとっていいことなんだろうなとは思う。
「……一歩の勇気で変われた。それを知ってほしくてこの曲を書きました。」
師匠は僕を見ると
「楽しいか?」
そう一言聞いて来た。
「………ちょっと楽しい。」
「そうか。」
師匠はなぜか嬉しそうに僕の頭をクシャっと撫でた。