Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
かちゃ…ぱたん。
無言で部屋に入り、無言で楽器を置く。
――「「うわぁぁぁ~~‼」」
涼と怜斗の叫び声で一斉に中央に集まった。
涼はハイタッチしたり背中をバシバシ叩いたりしてくる。
それくらい嬉しかったんだろう。
「うわぁ~!マジでヤベェ!めっちゃ楽しかった!」
大興奮の涼。
「あんなに楽しいのかよ!?うわっ、すげぇ!
怜斗はニヤつきながら飛び跳ねる。
「思ったより拍手もらえたな。」
恭也がそういう。確かに去り際、「すごい」「うまい」などの声が聞こえた。
やばい。
心臓の鼓動がすごい。
治まらない。
ドキドキが止まらない。
「夏樹!」
涼に名前を呼ばれ顔を上げた。
「どうだった?」
他の2人もこちらを見る。どうだったって……
「………楽し、かった。」
俯きがちでそう答えた。
「しゃぁ~!夏樹に楽しいって言わせてやったぞ!」
涼が子供のように騒ぐ。
「そんなに大袈裟に喜ぶこと?」
「喜ぶよ!だってみんなで演奏するの気持ちよかっただろ?」
「別にそういうんじゃ、」
「素直じゃないな。ガキかよ。」
「そうだぞ~!」
恭也と怜斗にからかわれる。
………音が重なった瞬間、目の前の景色が変わった。
涼のリズミカルなドラム
怜斗の低音ベースと元気な歌声
恭也の安定したリズムギター
アクセントが効いた僕のギター
お客さんの拍手
すべてが合わさって一つになる。
それが音楽。
こんな気分を味わうのは本当に久しぶり。
新しい世界に入ったみたいで感動さえもする。
………………楽しかったし、嬉しかった。
「………ありがとう。」
「へっ?」
「何でもない。」
涼に聞かれるも無視して帰り支度を始めた。
「嘘だ、今ありがとうって言ってたよな?おい!聞こえてっからな!?」
「言ってない。耳おかしくなったか?」
「んのやろっ…!」
「早く片付けるぞ。次のチームが来る。」
ぎゃいぎゃい騒ぎながら控室をあとにしたあと、打ち上げも兼ねてファミレスへ。今回の反省だったりこれからの予定を話し合う。高校生バンドフェスが終わり、次の大きなステージは文化祭。まだまだ時間はあるが、そこまでに個々のスキルアップをしなければ。クオリティを上げるため、更なる練習。基礎練習の時間も増やすことにした。
………………でも、学校での練習だけでは互いに教えられる範囲も時間も経験も刺激も足りないだろう。
「あのさ、」
「どした?」
僕の問いかけに怜斗がハンバーグを頬張りながら聞く。
――「今度、Midnightのバンドステージ見にこない?」
本物のバンド、見てみようよ。