Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
「Midnightにみんなを連れてきたい。」
そう夏樹から言われたとき驚いた。夏樹は、家に誰かを招くこともなければ、誰かと出かけることも遊ぶこともなかった。それがここ最近はどうだ。
夏樹は変わった。学校での出来事を話す。バンドの話をする。表情が前よりも豊かになった。他人から見ればまだ、無愛想なガキンチョだろう。だが、俺のとっては可愛い一番弟子なんだ。
ー『これどうやってつなげるの?』
ー『おんがくでね、ぎたーやっちゃいけないんだって。わたしはひきたいのに。』
ー『ししょー、ここどうやって弾くんですか?』
ー『師匠、次のステージのことなんですけれどー』
……シールドの繋げ方も知らなかったあの子がここまで成長するんだな。もう高校生か。大人びて、背も随分伸びた。月日が経つのは早いな。
「師匠。」
夏樹がギターを持ってやってきた。
「この間の曲、アレンジしたんで聞いてもらってもいいですか?」
「いいぞ。」
夏樹は定期的に、既存の曲をアレンジしたり、サポートで弾く曲のチェックを俺に見せる。
♪♬♪---♪♬♪~~
夏樹の演奏は高校生とは思えない。プロ並みの演奏とテクニックで観客を圧倒させる。ギターだけのはずなのにまるで歌っているかのような弾き方。リズムも的確。原曲を再現しながらもそこにオリジナルのアレンジをいい度合いで組み込む適応力。
俺はギターに関しては基礎的なこととそれを少し応用したテクニックしか教えていない。あとは夏樹の努力だ。自分がやってみたいと思ったものを俺やここにくるバンドマンに教わる。そうやって自分の手数を増やしていったんだ。
「どうでしたか?」
1曲分弾くと俺に感想を求める。
「技術としては申し分ない。だが、曲を通して緩急がねぇな。つまんねえ。もっと強く、遊ばせる感じでもいい。」
そういい、俺はギターを持ってきてそのフレーズを弾いた。
♪♬~~~~‼
夏樹の奏でる音は繊細で細かくていいんだ。緻密な演奏。そこにもうちょっと迫力を増してもいいんじゃないか。なんなら少し強く弾きすぎたっていい。
「すげぇ……」
夏樹は目をキラキラさせて演奏を聞いた。
「まだまだだな。」
「うーん……」
夏樹の頭をわしゃわしゃと撫でる。
悔しそうに唸る夏樹。こういう反応を見るとちゃんと子供なんだなと安心する。こいつは年齢の割に子供らしくないからな。……生い立ちが複雑なことも関係あるんだろう。美奈子にも、俺にも家の奴らにももっと甘えさせてやりたいんだがな。