Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
通路の奥から声が聞こえ、パーカーのフードを深く被る。……目の前に現れたのはー。
黒髪の男。
身長高すぎない……?涼よりも高いんだけど。外見からはとて18歳に見えない。
「今日はありがとう。俺はここで働いているシュートっていいます。よろしくね。」
そう握手を求められる。が、
「…よろしくお願いします。」
特に応じることなく挨拶だけした。
「ステージまで時間あるんで、控室で待っていてください。」
にこりと笑うとそのまま戻っていった。
「あいつがシュートだ。2年前からここで働いている。ナツの2個上、高3だ。」
……マジかよ。あれで高校生?どこからどう見てもホストだろ。それにしても……。
愛想いい作り笑顔だったな。一瞬で分かった。本当の笑顔ってのは、じわぁっと、スポンジを絞るみたいに笑う。
けれどあいつの笑顔は偽物だ。
仮面の裏に、何か黒いものが見えるような笑顔。
……僕と同じ笑顔。
そのあと、ステージの確認をさせてもらう。客はもう入ってしまっているから裏からステージと客席を見る。最前列との距離約50㎝。意外と距離近いなぁ~。さすがクラブ、狭い。
…んー、これは何か飛んできそうな予感がする。
説明では、ステージ上では照明装置で顔はほとんど見えない。MCは極力しない。客には撮影の禁止を伝え済み、とのこと。
「それとここの店、たまにヤジ飛んでくっから気ぃつけてな。そのときは俺とシュートで止めるから。」
やっぱりあるのか。なんとなく想像はしていたけれど、いざそういうことされると萎えるよな。怖いよ、え、ヤジってどんな?下手くそー!とか?死ねぇ!とか?いや、死ね、は名誉棄損だよね。
時間までに練習とメイクと終わらせる。Midnightではない場所。師匠もいない。常連さんもいない。恐怖心と不安が募る。
考えすぎちゃいけない……。
前のバンドさんが終盤に差し掛かった。時間を見計らっていつものルーティンをする。
………………・---
この動作をすると不思議と気持ちが冷静になる。違う自分になったような気分になるんだ。
「出番だ。」
いつも通り、みんなに歌を届けよう。俺はギターを持つとステージへ向かった。
だが、ステージで待っていたのは。