Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
「どうだった。」
「ヤジが来ました。」
Midnightに寄って、師匠に現状報告。ギターをクリーナーで拭きながら答える。
「叫んで黙らせたらしいじゃないか。マスターから聞いたぞ。」
だって仕方ないじゃん。静かにしてくださーいで収まるような雰囲気じゃなかったんだから。
「演奏、やっと自分らしさが出たな。」
「力任せ過ぎました。」
「いつもあれくらいやってもいいんだぞ。」
師匠は弦を交換しながら、具体的なアドバイスをしてくれた。
まず、発声。途中でイカれて高音が汚かった。もっと楽にできるようにボイトレを見直す。それから息継ぎ。ブレスの場所をしっかり決める。箇所を間違えると息が苦しくなって、発声にもよくないからな。内容をノートに書いて分かりやすいように付箋もつける。すると、師匠は僕の顔を見ると、
「………モヤモヤしている顔だな。」
…ステージが終わったとき思ったことがある。心の中でわだかまりになっていること。
「今日、あの曲を歌ったことは正解だったんでしょうか。」
あの場で歌った曲は、狂気的なもの、死ぬ直前の断末魔みたいな曲ばかり。今考えたら、ステージで客に向けて歌うべき曲ではなかったんじゃないかって。僕も後半は感情移入しすぎて少し泣いていた。演奏中、歓声の一つも上がらなかったし、歌詞を聞いて戸惑う客もいたんだ。
「でも、お前はステージ楽しかったんだろ?感情全部乗せて届けることができたんだろ?」
「…………はい。」
「ならいい。正解なんてねぇよ。自分が納得のいく音楽ができたのならそれで上等だ。」
師匠は僕の頭をポンと撫でた。
この言動、行動にどれだけ救われているか。もっと、自分の音楽を追求していっていいんだって思わせてくれる。それから、と師匠は2階を指差していった。
「ゆずながいるぞ。Bスタにいるから声かけてやってくれよ。」
時計を見るともう9時近くになっていた。そろそろ家に帰さないと。補導でもされたら面倒だ。