Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
Cyanとコード
「Cyan…」
マスターが狼狽えながら名前を呼ぶ。
「もう話しました。事情もお互い知っているので大丈夫です。」
そして、
「この人と話をさせてください。」
今はナツとシュートではなく、Cyanとコードとして話がしたい。
それからマスターは俺とコードのために控室を開けてくれた。聞きたいことが山ほどあるんだ。クローズまでに間に合うか分かんねぇな。控室に入り、テーブルを挟んで対面に座る。コードは荷物を置くと、がこっと、椅子に座った。
何から聞こうか。まだ自分の中で情報が整理できていないからな…。
「Cyanちゃんてさ、」
コードが口を開く。その呼び方に
「ちゃんってやめてください。呼び捨てで構いません。」
ツンと言い返す。ちゃんづけとか恥ずかしいにもほどがある。コードはごめんごめん、と軽く謝った。
「Cyanってさ、綺麗な顔してるよね。」
「………………………は?」
最初それ?何を聞いてくるかと思ったら、容姿?
「目とか切れ長ですごく綺麗。好み。」
そう顔を近づけた。甘ったるい香水が鼻に刺さる。
「…口説いてんですか。」
何も答えない。ずっと口角を上げている。何を考えているんだ?意図がまるでわからない。
「…僕は全く好みじゃないんで。離れてください。」
「冷たいなぁ。」
頬を膨らませ、子供のように拗ねた。
「そういう話をするために2人にしてもらったんじゃないんですよ。」
コードの目を見る。
「なんで僕がCyanだって分かったんですか?」
最初の疑問はこれだ。俺の存在についていつ知ったのか。
「僕はMidnightで一般客の前ではCyanとして一切歌いません。ステージに立つのはナツとしてギターを弾くときだけです。限られた時間、場面でしかステージには立ちません。なのにアンタは、なぜ僕の正体や顔まで知っているんです?」
僕はバンドさんとのコラボ、ソロ、Cyanとしてステージに立つときも含めて事前予告はせず、当日発表だ。だから、いる日をピンポイントで狙って来れる客はいないんだよ。
「刑事みたいだねぇ~(笑)」
「こっちは大真面目に話してんだよ。」
いつまでヘラヘラしている。あまりにもイラついてわざと低い声で言う。コードは「怖ーい」茶化したあと、経緯を話し始めた。
「きっかけは6月の中高生バンドフェス。君、あれ出てたでしょ?確か…AMITIEってバンド名で。
―そこに俺も観客としていたんだよね。」