Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
―「その日、結局君を見ることはできなかった。でもね、フェスのときのギターの音が、Midnightで聞いたナツとCyanと一緒だった。」
「…音が一緒ってどういうこと。なんでギターの音なんて分かるの。」
「俺、小さい頃からピアノやっててさ。絶対音感があるんだよね。ソロパート、緩急のつけ方、音の取り方、タイミング。すべてが同じだった。癖ってさ、自分が知らない間に定着してしまうものだろ?」
フェスでその記憶が一致した。あの子は、Midnightの子だ。清条の制服…女の子だったのか。だとしたら、…………。
あの演奏はなんだ?
全然違う。なんでそんなに弱弱しく弾いている?Midnightでの演奏はもっと力強いサウンドだったのに。調子悪いのか?周りに音消されているだけ?
よく見ると、バンドメンバーの様子をちらちら見ている。
遠慮、しているんだ。
他の楽器に自分の音が合うようにわざと抑えて弾いている。
いつも通りに弾けよ。
あの、体の芯から震えるような音を鳴らせよ。
俺の知っているお前の音はもっとー。
気持ちがすっきりしないまま席を立った。外に出ようとしたときだ。
ー「マジで最高だったなー!」
ー「ドラムも合ってたし。」
ー「ナツキのギターソロで一気にあがったよな!」
偶然、廊下ですれ違った。振り返ってその子を確認した。やっぱりそうだ。
ナツキ、か……おそらく彼女がナツでありCyan。
俺はすぐに行動に移した。半分賭け、もう半分はダメもと。この状況でマスターに無理言ってCyanに依頼をした。返ってきた返事はまさかの承諾。俺のなかでは「出られません。」で終わると思っていたのにさ。
そして前回のステージ。
ライフル銃で心臓ブチ抜かれたようなパフォーマンスだった。Midnightで見たときよりもはるかに上回る演奏。直接魂に訴えかける歌。全身がびりびりした。
この子は、まだ15、6歳のはずだ。俺と3つくらいしか変わらない。なのに、次元が違う。
「歌う」のが上手いというよりかは、「感情」の乗せ方が上手い。
喉が締まって掠れた高音、ロングトーン。
聞くものを一瞬で虜にする、このCyan独特の世界観に吸い込まれた。