Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
「Cyanかどうかはほぼ賭けだったけど、前回のステージで絶対的確信が持てた。」
壁越しに聞こえたギター音と弾き方の癖、歌声だけで分かったって。どんだけ耳がいいんだよ。普通は癖なんかすぐに見抜けないだろ。自分でも分かってないよ。
「俺が気づいたきっかけをざっくりまとめると、①ステージでのギターの弾き方の癖が一緒だった。②Midnightで聞こえた歌声とCyanの歌声が一致したから。あとは勘。」
バレたのが歌い手という同業者でよかった。これが一般人やリスナーだったらもうMidnightに立てなくなるところだった。
「どうして依頼を受けてくれたの?」
どうしてって言われても、
「君もさ、俺に気づいていたってことはない?」
………………くっそ。
「…依頼内容を聞いたとき、あなたのことを調べたんです。クラブのHPからあなたの名前を見つけて…そこから関連動画を探しました。その中にあなたが歌っている動画が出てきたんです。
名前表記はシュートだったけれど、声とか、息の入れ方とかが歌い手のコードに似ていて。もしかしたらって思って依頼を受けました。こっちも賭けでしたよ。」
コードがカバーした曲は何回も聞いていた。はっきり言って、この人はすごいと思う。ゾクゾクするような歌声が耳に残る。歌唱力、さっきも言ったけれど声量がエグイんだ。影で少し、…ファンだったってのがある。
「こんな日常で同職に会うのってなかなかの奇跡だと思わない?」
「そう、ですね。」
歌い手同士が現実世界でばったり偶然出会うってことはまず、ありえない。一般的にはじめはネットで知り合って、それから現実でコンタクトをとることがベター。といっても俺はこいつがはじめてなわけだけども。
「そんな固まるなよ(笑)なんか話して。」
話せって…。何から話せばいいんだよ。
「いつから…活動しているんですか?」
これくらいしか思いつかなかった。コードは「そんなこと?」と笑った。だって分かんないもん。少し恥ずかしくなって下を向く。
「コードとして動画を上げ始めたのは15歳から」
聞いた話では、コードは幼い頃からピアノを習っていた。ある日、ネットでボカロ曲のピアノカバーを聞いてから歌い手をいうものに興味を持ったらしい。高校生になってからはマスターの店に行くようになり、そのままバイトしているとか。
「約2年でここまで有名に?」
「有名じゃないよ(笑)」
「有名だよ。コードさんって今、YouTubeのチャンネル登録者数、」
「30万人。でも君はもう50万人目前でしょ?大きな差がある。」
チャンネル登録者数が少ないからなんだっていうんだ。この人はもっと評価されるべき歌声だろ。
「もっと伸びていい歌声なのに………。」
コードは「え?」と首を傾げた。
「みんながコードさんの歌声の良さに気づかないっておかしい。」
「急に褒めるね(笑)」
「だってコードさんの歌声は聞く人の耳を浄化するっていうか、そんな透明感があって。でも歌声はパワフルで、ラップ調の曲もバラードも歌える。僕にはできないこといっぱいできる。僕なんかよりももっと評価されるべきですよ。」
ずらずらとくちに出したのを言い終わってから後悔した。
「それ本人の前で言うの面白いねw」
コードはけらけら笑った。それから歌のこと、音楽活動のことを色々話した。