Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
それから数日後。
「初めまして。俺―」
「コードだな。」
今日はバトルの日。歌ったあの日から自分がどこまで行けるのか試したくなって応募することにした。今回は少し遠方の会場だから一人では危ないってことで、コードがMidnightまで迎えに来てくれた。それで今、出かけようとしているのだが。
「○○区のクラブに行くらしいな。お前、あの辺は詳しいのか。」
師匠とコードがちょっとピリつきムードです。
「はい。あの辺にはマスターの知り合いもいますし。俺もバトル自体は何回も出ているので心配はないと思います。」
それを聞いてもなお警戒心強めな師匠。その様子を見て、
「じゃあこれ。」
コードはスマホを取り出すと師匠に見せた。
「俺の連絡先です。あ、この宗ってのは俺の名前です。」
「お前、名前って…」
「マスターも知っています。何なら確認してくれても構いません。何かあったとき用に交換しておきましょう。」
「分かった。だが、くれぐれも危険な場所には連れて行くなよ。こいつはまだ未成年だ。」
「承知しています。」
何とか出発。
ピロン。師匠からメッセージが届いた。
ー『もし遅くなるようだったら迎えに行くからな。あと、そいつに何かされたらぶっ飛ばせ。』
ぶっ飛ばせって。師匠、さすがにそれは無理。コイツ、身長182㎝あるんですよ。足もリーチも長ぇんすわ。緊急事態起こったらちゃんと110番しますから。
「あの人?Cyanの師匠って。」
「そうです。」
「めちゃくちゃ警戒心強い人だね。Cyanとそっくり。」
逆に警戒しない人なんているのかよ。
「何で本名とか顔とかバラすんですか?」
「だって信用してもらえないじゃん?」
信用の二言のためにそんなに全部教える必要あるのか。やっぱり俺には理解できない。首をひねった様子を見て
「ホント警戒心強すぎぃ~。会うの3回目だよ?そろそろ心を許してよ?」
顔を覗き込んでくるコード。
「たった3回会っただけで信用しろっていう方がおかしいですよ。」
「あはっ(笑)Cyan節絶好調じゃん」
会場付近まで来た。
「ここからはジュンとシュートで行こう。」
今回新しいハンドルネームである「ジュン」と名乗ることにした。受付を終えて中に入る。
マスターのクラブよりも規模が大きい。爆音のBGM、酒の匂い、煙草の香り。大人たちばかりの空間。
この雰囲気、怖い。緊張と不安で身体が固まった。
「俺から離れないで。」
様子を見たコードは俺の肩を引き寄せた。
「お、シュートじゃん!久しぶり~」
「やっほ!久しぶり~」
「シュート今日も期待してんぞ~!」
「ありがと~!」
通り過ぎる人たちから声をかけられるコード。相当出入りしているんだ。人脈広そうだし。
「結構友達いるんですね。」
コードにそう言ったが、「何のこと?」と聞き返してくる。
「さっき声かけてきた人たち。顔見知りっぽかったから。」
「あー、あの人たち?別に知らない人だよ。どうせどっかのステージで俺のこと見かけたんじゃない?」
え。だってあんなにいかにも友達ですよって感じで話していたじゃん。
「あっちが勝手にオトモダチって勘違いしてるだけ。俺にとってはただのモブ。」
その言葉に僕でも冷たい人間だなと感じた。
「アンタも冷たいところあるんですね。」
俺の言葉にコードは、「冷たい~?ちょっとそれはショックだなぁ~w」といつもの感じで笑う。
コードはよく分からない人間だ。僕が今見てるのは表の顔なんだろうな。…こいつも自分を隠している。
「トーナメント表、出たらしいから見に行こう。」
そう言われ、ステージ横に向かう。今回は8人が参加するトーナメント方式で、勝った人が次のバトルに進める。ルールは簡単、いかに会場を沸かせられるか。
参加者は全員年上。その極度のプレッシャーと状況に耐えきることができるか。初めての舞台で初めてのバトル。これは自分自身への挑戦でもある。
えっと、Cブロックか。それでここから勝ち上がると…。
嘘だろ。
恐る恐る隣を見た。
「へぇ~、これは予想外だね。」
静かに笑うシュートの姿。
【Cブロック】ジュンVS■■
【Dブロック】○○VSシュート