Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
「お疲れ。いや~、惜しかったね。俺もまさかドローなるとは思わなかった(笑)」
アハッと笑いながら話しかけてくるコード。
2回戦目、ドローまで持ち越したものの、延長戦でコードに負けた。そのままコードは決勝までいって優勝。2連覇だってさ。
延長戦が始まる前にすでに体力を使い果たしていた。声量で負けちゃいけないと、無理に声を張り上げすぎたのが原因。歌っている途中で喉が潰れて咳き込んだ。そこからはもうダメダメ。
終わった後、「よかった」とか、「お疲れ様」と声をかけてくれる人もいたのだが、それがどうしてもただの慰めに聞こえてしまってその場にいられなくたった。それで、勝手に会場抜けて路地裏に逃げてきたんだけど。もう見つかっちゃった。
「何、負けていじけてるの?」
うるさいな、今は話したい気分じゃないんだよ。無視してイヤホンを耳につける。
圧倒的な力の差。1回戦に勝ったこと自体、運がよかっただけ。
まず、観客の巻き込み方が上手かった。ハコ全体を味方につけるようなパフォーマンスや仕草。今まで踏んできた場数が違うんだ。
それから歌。どうしたらあんな声量で歌えるんだよ。肺活量どうなってんだ。ギア上げっぱで歌ったら掠れたりするだろ。なんで余裕なんだよ。それなのに声は綺麗で重みがあってブレていない。練習しているのになぜ僕にはできない?
…………バトルは終わったんだ。もう、帰ろう。そう思ったとき、
「そうだよねー!だってMidnight以外で歌ったのたった2回だけなんでしょ?経験少ないし、ちょっとレベル高すぎたよね~。ごめんごめんwww」
コードが急に大きい声でそう言った。経験少ないのは認めるけれど、こっちにも理由があるんだよ。お前みたいに顔出ししてるわけじゃないんだから。
「自分が認められるか怖いもんね~。ヤジ飛んでくるかも不安だしぃ?おまけにまだ15歳の女の子、危ない危ないwww」
女扱いガキ扱いすんなよ。年齢なんて関係ねぇだろ。僕が目の前にいることを忘れたようにからかってくるコード。
腹立たしい。でもキレたらだめ。それじゃあ相手の思うツボ。落ち着け、ただの煽りに乗るな。キレたらだめ。
「それに、―」
キレたらだめ。キレたら……。
「君ギター無いと何もできないしwww」
ぷつっ。