Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
気づいたときにはシュートの胸倉を両手で掴み上げていた。
「あはっ、キレてる(笑)……つーか、話聞こえてんじゃん。」
ギターがないと何もできない?ギターが無くても声は届けられる。想いを伝えることはできる。こっちにもそれなりにプライドってもんがあるんだよ。さっきから散々言いやがって。ウゼェよ。うるせぇよ。それにお前だって、
「そろそろアンタもその仮面とったらどうですか?」
「え?」
お前だって…俺と同じ種類の人間だろうが。
「アンタ本当はそんなんじゃないでしょ。いつも愛想振りまくように偽物の笑顔で笑って。猫被り。」
人目を気にする。取り繕った違う自分で接する。表向きは社交的、裏では冷淡。その薄っぺらい仮面、いい加減とったらどうなんだよ。
「………そこまでにしようよ。」
「まだあるよ。アンタの高校、白新学園だろ。前にカバンから制服見えてたよ。」
表情が変わった。図星だな。
前に見た赤色のブレザー。あれは白新学園の制服だった。そこは偏差値70近い、県内でも名の知られている進学校。
「そんな進学校の生徒さんが夜中にクラブですか?」
「…何が言いたいの?」
「アンタは人を見下すことにしか能がないのか?」
コードの眉がぴくっと動く。煽り返し成功?別にどうでもいいけれど。
「敬語が抜けてきているよ?」
「気にしてないだろ。」
鼻で笑う。
「…そろそろキレるよ?」
「勝手にすれば?」
ガッ‼
その瞬間、壁に強く身体を押し付けられた。背中がぶつかり、声が出る。
痛った…。目の前にはコードの顔。
「…さすがにここまでしていいとは言ってない。」
「関係ねぇよ。」
恐ろしく低く、冷たい声。瞳孔開きっぱなしの目に息をすることを忘れる。しかも手首がっちりホールドされているから抵抗できない。無理ほどこうとしても無理。ビクともしない。
「じゃあ聞くけれど、お前はあのメンバーで満足なの?」
は?
急に何言ってんだ。
「バンド。あんなガキの集まりで満足?本当はもっとレベルの高いバンドで演奏したいんじゃないのかよ?」
どうして今あいつらの話題が出てくる。お前には関係ない事柄だ。
「何言ってんの。」
「だってフェスの演奏聞いたけれどさ、君のギター何?なんであんなに弱弱しく遠慮して弾くんだよ?お前の本当の音は、もっと貪欲な、すべてを支配するような音なのに。何で静かに自分を殺して弾くわけ?手ぇ抜いてんのか?ビビッてんのか?あ?なぁ、」
質問攻めのコードにたじろぎ、視線をずらす。が、
「目を逸らすんじゃねぇよ。」
グイっと顔を持ち上げられる。全身が、固まる。覆い被さるような威圧感に腰が抜けそう。
「自分より下のレベルの人間に合わせて楽しい?優越感に浸れるから?まぁそうかw実際、あの子たち下手だったしw見てるだけでウケたよw」
…あ?
何で?
お前、あいつらのこと知らないだろ?
は?下手だ?
どの立場で言ってんの?
何で?
お前があいつらにとやかく言う必要がどこにある?
「あんなのただのお遊びー」
「馬"鹿にすん"な!」
ガサガサの声で叫んだ。
馬鹿に、するな。
「生半可な気持ちでバンドやってるんじゃない。じゃなきゃあんなに一生懸命練習しない。教え合ったり、時間ギリギリまで練習するようなやつらなんだ………。それを、何も見ていないお前が…、」
みんなは、下手じゃない。
本気で、音楽をしてるんだ。
練習して何度も練習して、あそこまで上手くなったんだ。
みんなはもっと上手くなれる。もっとだ。
「だから何?」
「仲間を、侮辱するな。」