Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
しばらくするとコードは俺から手を離した。手首にくっきり掴んだ跡が残っている。
「じゃあさ、そのバンドのみんなに自分の本当の演奏や姿見せたらいいじゃん。」
自分の演奏を、見せる…?
感情むき出しでぐしゃぐしゃになりながら弾いているあの演奏を?
「っそれは、」
「やっぱり怖いんだろ?それだからいつまでたっても成長できないんだよ。臆病者。」
核心を突く言葉を言われる。
……怖いよ。僕はいつも除け者だ。
ー『あの子はバケモノだ。』
ー『レベルが違う』
ー『ガキが調子乗ってんじゃねぇよ。』
ー『夏樹ちゃんって変わってるよね。』
自分を隠さず、正直になって弾けたらどんなにいいか。
たくさん音かき鳴らして、
自己満足のいく演奏やパフォーマンスができたら、
ありのままの自分で接することができたらどんなにいいか。
でもね、そういうことをしていくとさ。
人って離れていくんだよ。
独りぼっちになる。それが結末。
バンドに参加してもレベルが違うからとはじかれた。
遠慮して弾くと怒られて、本気で弾くと離れていく。
だからサポートもソロステージも周りの反応伺ながらしているんだ。
一人ぼっちになることが怖いから、あえて最初から独りになることを選んだ。
本当の姿を晒せって?無理だ。
コードが言った通りだよ。僕は外部ステージにも立てない臆病者だ。悔しくて涙が出そうになる。コードは一呼吸置くと言った。
「今までCyanに足りなかったものは自分の殻を破ることだった。それを前のステージで破った。本当の自分のやりたい演奏、歌い方、曲でステージに立てた。だけど、もっと高いところを目指すのなら、更に上にいかないといけない。」
さらに、上…。
「それは自分の限界を超えること。」
自分の限界?
「…体力も残ってないし、喉が潰れてガッサガサなの!…僕だって…やれることは全部やってる!でもできないの!……これ以上、どうやって限界になれっていうんだよ………っ。」
やってるよ。全部やってるし知ってるよ…。
「体力がないならこれからつけるんだよ。場数も踏んで慣れていく。もっと大きいステージに立ちたいなら今の声量じゃ聞こえないし、届かない。ギターも同じ。殻を破ったなら限界突破するまでの道は開けているはずだ。今まで以上に本気で音楽を向き合わないと上には上がれないよ。蹴落とされる。」
そんなこと言われたって、どうすればいいんだよ。
限界って何…。大きいステージって…。分からない。
「お前さ、どんな音楽がしたいんだよ?」
?
「Cyanだとかナツだとかじゃなくて。いち、表現者としてどんな音楽がしたい?お前の中での最終目標は何だ?」