Dying music 〜音楽を染め上げろ〜





「戻りましたー。」

「どうだった?どうせ優勝したんだろう。」


マスターが店内の掃除をしながら尋ねてくる。



「しましたけれど、2回戦目にCyanにドローまで持ち越されました。」

「ドロー?随分珍しいな。」




俺だってびっくりしたよ。あのバトルには何度も出ている。優勝だってしてる。でもここまで追い詰められたのは久しぶり。

ドローって聞いたとき、めちゃくちゃ興奮した。だってあのCyanともう一戦できるんだよ?

画面の中の存在だったCyanが目の前にいる。俺と歌で真正面から勝負している。もう興奮してギア上がりっぱなし。




Cyan…。あの子はまだ自分の限界を知らない。境界線の一歩手前まで来ているのに、そこから引き返してしまう。もうここでギブアップ、そう思い込んでしまっている。その線を超えたら、もっともっと楽しくなるのにね。これからが楽しみ。



「マスターはCyanのことどう思います?」



はぁ?と返事をされたがマスターは考えると、


「ありゃメジャー行くな。それかどっかの事務所が引っ張るんじゃないか。」


そう答えた。


「まだ15,6歳ですよ?」

「お前だってまだ18だ。」


高1ってことは今年で16歳か。その年でメジャーデビューする歌い手って今までにいたっけ?



「昔と今じゃネット上の歌い手はだいぶ変わったからな。」

「最近じゃアイドル系も増えてきていますからねぇ。」

「お前もそういう方向を目指すのか?」


まさか。


「いいえ。俺は昔のネット界隈の方が好きです。歌だけ勝負って感じで。」


俺には俺なりのスタイルがあるから、「グループ」活動は向いていない。だって方向性違う奴らとアイドルごっととかしたくねぇし。


俺はテッペンを獲りたい。実力行使。ライバルは全員蹴散らす。そういう考えでやってきた。



Cyanは俺に何で顔出しするんだって聞いてきた。それはね、表情管理もお客さんを盛り上げる一つの材料だと思うからなんだよ。

人の顔って筋肉が沢山あるから、わずかな動きや動作で人に感情を伝えることができるだろ?悲しい歌を歌うとき、唇を震わせながら歌う。楽しい曲なら口角を上げながら歌ってみる。そうするだけでその曲の良さや歌詞の意味をダイレクトに伝えることができるんだ。

もちろん、ネット上では顔出しはしていない。ステージに立つときだけ。
 




< 93 / 191 >

この作品をシェア

pagetop