Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
どんな音楽。みんなが音楽に対してどんな気持ちを持っているのか知りたかった。
どんな演奏にしたくて、何を頑張りたくて、このメンバーと何を成し遂げたいのか。考えが知りたい。最初に口を開いたのは怜斗だ。
「俺は自分がやって楽しいと思う音楽がしたい。この前のバンド見て思ったんだ。あのステージで演奏している人たちは楽しみながら演奏しているってさ。俺まだ下手じゃん?だからみんなと弾くときまだ怖いし不安もある。俺は新しいことがもっとできるようになって、自信をもってベースを弾いて、楽しいって思えるような音楽がしたい。」
怜斗は、まだまだ技術的に未熟だ。基礎も完全完璧ってわけじゃない。
でも指を見れば分かる。
少し分厚くなった皮膚。ベースは基本指弾きだから、そうしても指の皮が剥ける。それが繰り返されて皮膚が分厚くなる。そのくらい怜斗は練習しているんだ。
「俺はかっこいい演奏がしたい。スワローのギターさんみたいな。俺はいつもそのまんま弾いているから、難しい曲もアレンジ入れて弾けるようになりたい。」
恭也はスワローさんのステージで動画を撮っていた。恭也は顔には出さないけれど大の負けず嫌い。来週合わせると言えば、その日までに完璧に仕上げてくるような一切妥協しないやつ。
「俺は楽しい音楽がしたい。それに、人を惹きつけるような演奏がしたいな。みんなでつくるステージや音楽をして心の底から楽しみたい。」
コイツがいるからAMITIEは成り立っているようなもの。ドラムは曲全体のリズムを支えるバンドの中の大黒柱。僕らが安心して弾けるのは涼が後ろから支えてくれているから。
………そっか。みんな、こんな風に思っていたんだ。
「よかった。」
「よかったって?」
僕の発言に不思議そうに聞く涼。
「ここに居る全員、音楽が大好きで本気で上手くなりたいと思っていたから。」
その言葉に3人が目を見合わせる。
「バンドって、メンバーが同じ気持ちと方向性じゃないとまとまらないと思うんだ。僕もみんなと同じ。上手くなりたいし、何より音楽を楽しみたい。音楽に対して互いに高め合える同志。だからあの時仲間って言ったんだ。」
心から3人を信用できるかと言われたら、そうではない。
何が得意?
何が好き?
どんなきっかけで楽器を始めたの?
まだまだ知らないことがたくさん。
どこまで介入していいのかも分からない。
でも、今、ここにいることの心地のよさ、ノリ、雰囲気。このメンバーと演奏することが楽しい。
「みんなの、おかげで…楽しく弾ける、から。途中から入った身ではあるけれど、これからも…よろしくお願いします…。」
今はこう言うことがやっと。
「大丈夫。夏樹が楽しいって思ってくれていたんならそれで十分だ!」
「途中からとか気にすんなよ!一番上手いくせに~!」
「素直な夏樹って新鮮ww」
いつか、ちゃんと話せる日まで。与えられた時間を楽しもうと思う。