左遷された王女は青銀の風に守られる ~地属性魔法で悪人退治を楽しんでいたら大変なことになりました~



 離宮は東の国境近くのジャンルーカにある。
 ジャンルーカは豊かな土地で、農耕が盛んだ。街もそれなりに栄えている。
 その離宮で、フェデリーカはぼうっとしていた。
 王宮にいるときは毎日なにかの勉強をしていた。やらなくていいと言われた歴史や地理の勉強もした。将来役に立つと思ったから。王都の施設を訪れたり慰問したりの公務もしていた。

 魔法の勉強はしなかった。
 フェデリーカの魔力は少ない。幼い頃には落とし穴くらい作れる魔力があったが、成長とともに減退し、今はスコップ一掬いぶんほどの穴しか掘れない。
 神官に相談したところ、成長で魔力が落ちるのはよくあることです、と言われた。ストレスなどで魔法が使えなくなることもあるという。

 だから魔法の勉強をしても役に立つとは思えなかった。無駄な努力をするよりは、着実に身に付くものを習得したかった。
 だが、せっかくの勉強も王女としての地位を失くせば無駄なように思えた。
 今となっては、なにをしたらいいのかわからない。

 これじゃ悠々自適なセカンドライフなんて無理ね。
 いや、悠々自適ではあるのか。働かなくていいんだから。
 でも……。
 フェデリーカはため息をつく。

 魔力が大きければ畑を耕したり建物の基礎工事に協力したりできるのに。兵隊なら塹壕(ざんごう)を掘ったりするのよね。
 魔法を使えること自体が珍しい。だから、使えることがわかった当初はちやほやされた。特に祖父にはかわいがられた。女児というのもかわいく思えるポイントらしかった。

 カロージェロはそれが気に入らなかった。
 父は三兄弟の末子。祖父には厳しく育てられたという。物心がついたとき、年の離れた兄たちはもう大きくなっており、厳しくする必要がなかった。だから、彼は自分だけが厳しくされていると錯覚して思春期を過ごした。

 兄二人が相次いで病死し、王位を継承した。
 祖父はカロージェロを心配し、王位を譲ったあともあれこれと口をだして煙たがられた。

 そのとばっちりが、フェデリーカに来た。
 一度だけ、祖父が愚痴っているのを聞いたことがある。同じように愛して育てたはずなのに、カロージェロとはどうして行き違ってしまったのか、と。

 父は祖父が溺愛する自分を嫌い、自身と同じ末子であるコルネリオを溺愛した。
 それは祖父が亡くなってからも変わらず、昨年母が亡くなると加速した。

 幼い頃はなぜ冷たくされるのかわからず、父の関心を引こうとがんばったこともある。
 だが、なにをやっても無駄だった。
 だからあきらめた。
 幸い、魔法など関係なく母も兄も自分を慈しんでくれた。だからそれでいい、と思った。
< 4 / 43 >

この作品をシェア

pagetop