「恋愛ごっこ」してみませんか?ー恋愛に不向きなあなたのために!
第10話 「恋愛ごっこ」のおわりと「恋愛」のはじまり
ああいうことがあったので、廸もこれが限界だと思ったのだろう。次に会ったとき、僕に真正面から仕掛けてきた。
「お見合いの話があるので、もう『恋愛ごっこ』を終わりにしたいのですが?」
廸が僕を試すためにお見合いの話を持ち出したのはすぐに分かった。廸には僕の失敗談を話していたからだ。でも、それを聞いたとき、自分の素直な気持ちが分かった。そして僕の答はもう決まっていた。過去の失敗を繰り返してはいけないことも分かっていた。
「ああ『恋愛ごっこ』はもう終わりにしよう。終わりにする代わりに僕と結婚してくれないか?」
僕ははっきりと言った。でもこんな時にこんなタイミングでプロポーズの言葉を言うことになろうとは思ってもみなかった。でも僕はもうすっかり変ってしまっていた。今なにをなすべきか分かっていた。
廸は突然の僕のプロポーズに驚いたのか、期待していなかったのか、黙ってしまった。突然のその沈黙に僕は気が動転してしまった。その沈黙の時間がとても長く感じられた。
僕の思い過ごしだったのか? いやいや、そんなはずはない。それでもここで引き下がるわけにはいかない。なんとかしなくてはいけない。
「すぐに決められないなら、僕と本気で恋愛してみてくれないか?」
とっさに口に出た言葉だった。すると彼女は僕の目を見てニコッと笑った。
「はい、結婚を前提にした恋愛をお受けします」
プロポーズの答は得られなかったが、結婚が前提の申し込みは受け入れられた。
それからの僕は堰がきれたように急速に廸との関係を深めていった。すぐに彼女を誘った。
「今度の週末は僕の部屋に遊びに来ないか?」
「はじめてですね。部屋に来ないかなんてどうしてですか?」
「どうしてって二人だけでゆっくり話がしたい」
「いつも二人だけでお話しているではありませんか。どうしても貴方の部屋でなければならないのですか?」
「はっきりいうと下心があるから、だめならいいんだ。無理することはないから」
「そういう言い方あなたらしいわ。誠実ですね」
「誠実?」
「聞いてくれますか? 私の話を」
「ああ、聞かせてくれないか?」
「以前、お付き合い人がいました。でも元彼というほどの関係ではなく、単にお付き合いしていただけと言った方が合っているかもしれません。出会ったのは入社して2年目で、仕事にもようやく慣れてきて生活にもゆとりができたころでした。
人数合わせに誘われた女子大時代の先輩の合コンに参加して、そのときに出会いました。彼も人数合わせで参加したとのことなので、それがきっかけとなって時々会うようになりました。
彼は大手商社に勤めている有名大学出身のエリート社員でした。5歳ほど年上で、見た目もかっこ良く、優しくて女性の扱いにも慣れている感じがしました。何事にもそつがなくて食事をする時も洗練された店に連れて行ってくれました。それで誘われて何回かデートをしました。
そのうち合コンに誘ってくれた女子大の先輩と二人で自分のマンションへ遊びに来ないかと誘われました。現地集合となっていたので彼のマンションを訪ねました。
マンションで待っていてもなかなかその先輩は現れませんでした。彼に問い正すと二人きりになりたかったので、嘘をついてしまったといわれました。そして私をいきなり抱き締めてきました。とても強い力でした。
私は力一杯抵抗して、その腕を振り払って部屋を飛び出してきました。後ろで俺が好きなんだろう、いいじゃないかと叫ぶ声が聞こえました。でも振り返らずにエレベーターに飛び乗って急いでマンションを離れました。
彼に誠実さが感じられなくて、とても不快な気持がしました。そのあと彼からの連絡が途絶えました。私に失望したのかもしれませんが、私こそ彼に失望しました。私を一人の女友達としか見ていなかったのかと思って惨めな気持ちになりました。また、私を大切に思ってくれていなかったのが悲しかったのを覚えています」
「そんなことがあったんだ」
「私は進学校の女子高校から女子大へ進学したので、恋愛の機会も少なくてそれまで恋愛経験がありませんでした。だからかえって恋愛に無頓着だったのかもしれません。一人の人を好きになって愛することなど深く考えたことがありませんでした。
ただ、彼とのことが契機になったのは間違いありません。人を好きになるってどういうことだろうと考えるようになりました。それで吉田さんと出会って、あんな提案をしてしまいました。
吉田さんと『恋愛ごっこ』をしたら、人を好きになる素直な気持ちというものが分かるようになるかもしれないと思ったからです」
「『恋愛ごっこ』は僕のためだけでなく、自分のためでもあったんだね。それで分かったのかい。人を好きになる素直な気持ちが」
「あなたの誠実な気持ちが分かりましたし、私の気持ちもはっきり分かりました。だから結婚を前提にした恋愛をお受けしました」
「『恋愛ごっこ』が役に立ったということだね。ありがとう、良いことを考えてくれて」
僕は横に座っている廸の頬にそっとキスをした。突然、僕がそういうことをしたので、廸は驚いて目をしっかり開けて僕を見た。
「はじめてキスしてくれましたね」
「ごめん。どうしてもしたくなったから」
「いままでそういう気持ちになったことはなかったのですか?」
「何度かあった。抱きしめてキスしたいと」
「どうしてしてくれなかったのですか?」
「『恋愛ごっこ』中だったからかな」
「『ごっこ』だから、振りをしてくれてもよかったのに」
「キスの振りって、どうすればいいんだ」
「『ごっこ』の振りでキスしてくれればよかったのよ」
「できなかった。僕はそういう不器用な男だから」
「誠実だからです。それが吉田さんのよいところです」
「それで週末に僕の部屋に遊びに来てくれるのか?」
「はい、必ず行きます」
「お見合いの話があるので、もう『恋愛ごっこ』を終わりにしたいのですが?」
廸が僕を試すためにお見合いの話を持ち出したのはすぐに分かった。廸には僕の失敗談を話していたからだ。でも、それを聞いたとき、自分の素直な気持ちが分かった。そして僕の答はもう決まっていた。過去の失敗を繰り返してはいけないことも分かっていた。
「ああ『恋愛ごっこ』はもう終わりにしよう。終わりにする代わりに僕と結婚してくれないか?」
僕ははっきりと言った。でもこんな時にこんなタイミングでプロポーズの言葉を言うことになろうとは思ってもみなかった。でも僕はもうすっかり変ってしまっていた。今なにをなすべきか分かっていた。
廸は突然の僕のプロポーズに驚いたのか、期待していなかったのか、黙ってしまった。突然のその沈黙に僕は気が動転してしまった。その沈黙の時間がとても長く感じられた。
僕の思い過ごしだったのか? いやいや、そんなはずはない。それでもここで引き下がるわけにはいかない。なんとかしなくてはいけない。
「すぐに決められないなら、僕と本気で恋愛してみてくれないか?」
とっさに口に出た言葉だった。すると彼女は僕の目を見てニコッと笑った。
「はい、結婚を前提にした恋愛をお受けします」
プロポーズの答は得られなかったが、結婚が前提の申し込みは受け入れられた。
それからの僕は堰がきれたように急速に廸との関係を深めていった。すぐに彼女を誘った。
「今度の週末は僕の部屋に遊びに来ないか?」
「はじめてですね。部屋に来ないかなんてどうしてですか?」
「どうしてって二人だけでゆっくり話がしたい」
「いつも二人だけでお話しているではありませんか。どうしても貴方の部屋でなければならないのですか?」
「はっきりいうと下心があるから、だめならいいんだ。無理することはないから」
「そういう言い方あなたらしいわ。誠実ですね」
「誠実?」
「聞いてくれますか? 私の話を」
「ああ、聞かせてくれないか?」
「以前、お付き合い人がいました。でも元彼というほどの関係ではなく、単にお付き合いしていただけと言った方が合っているかもしれません。出会ったのは入社して2年目で、仕事にもようやく慣れてきて生活にもゆとりができたころでした。
人数合わせに誘われた女子大時代の先輩の合コンに参加して、そのときに出会いました。彼も人数合わせで参加したとのことなので、それがきっかけとなって時々会うようになりました。
彼は大手商社に勤めている有名大学出身のエリート社員でした。5歳ほど年上で、見た目もかっこ良く、優しくて女性の扱いにも慣れている感じがしました。何事にもそつがなくて食事をする時も洗練された店に連れて行ってくれました。それで誘われて何回かデートをしました。
そのうち合コンに誘ってくれた女子大の先輩と二人で自分のマンションへ遊びに来ないかと誘われました。現地集合となっていたので彼のマンションを訪ねました。
マンションで待っていてもなかなかその先輩は現れませんでした。彼に問い正すと二人きりになりたかったので、嘘をついてしまったといわれました。そして私をいきなり抱き締めてきました。とても強い力でした。
私は力一杯抵抗して、その腕を振り払って部屋を飛び出してきました。後ろで俺が好きなんだろう、いいじゃないかと叫ぶ声が聞こえました。でも振り返らずにエレベーターに飛び乗って急いでマンションを離れました。
彼に誠実さが感じられなくて、とても不快な気持がしました。そのあと彼からの連絡が途絶えました。私に失望したのかもしれませんが、私こそ彼に失望しました。私を一人の女友達としか見ていなかったのかと思って惨めな気持ちになりました。また、私を大切に思ってくれていなかったのが悲しかったのを覚えています」
「そんなことがあったんだ」
「私は進学校の女子高校から女子大へ進学したので、恋愛の機会も少なくてそれまで恋愛経験がありませんでした。だからかえって恋愛に無頓着だったのかもしれません。一人の人を好きになって愛することなど深く考えたことがありませんでした。
ただ、彼とのことが契機になったのは間違いありません。人を好きになるってどういうことだろうと考えるようになりました。それで吉田さんと出会って、あんな提案をしてしまいました。
吉田さんと『恋愛ごっこ』をしたら、人を好きになる素直な気持ちというものが分かるようになるかもしれないと思ったからです」
「『恋愛ごっこ』は僕のためだけでなく、自分のためでもあったんだね。それで分かったのかい。人を好きになる素直な気持ちが」
「あなたの誠実な気持ちが分かりましたし、私の気持ちもはっきり分かりました。だから結婚を前提にした恋愛をお受けしました」
「『恋愛ごっこ』が役に立ったということだね。ありがとう、良いことを考えてくれて」
僕は横に座っている廸の頬にそっとキスをした。突然、僕がそういうことをしたので、廸は驚いて目をしっかり開けて僕を見た。
「はじめてキスしてくれましたね」
「ごめん。どうしてもしたくなったから」
「いままでそういう気持ちになったことはなかったのですか?」
「何度かあった。抱きしめてキスしたいと」
「どうしてしてくれなかったのですか?」
「『恋愛ごっこ』中だったからかな」
「『ごっこ』だから、振りをしてくれてもよかったのに」
「キスの振りって、どうすればいいんだ」
「『ごっこ』の振りでキスしてくれればよかったのよ」
「できなかった。僕はそういう不器用な男だから」
「誠実だからです。それが吉田さんのよいところです」
「それで週末に僕の部屋に遊びに来てくれるのか?」
「はい、必ず行きます」