やっぱり血祭くんが好き!【こちらはマンガシナリオです】
13章
午後三時半。
私はオーランド様の車に乗っていた。
後部シートはものすごく狭かったが、そんなことはこれっぽっちも気にならない。
この車はフェラーリっていうらしい。
もちろん名前は知っているけど。
自分がこんなカッコイイ車に乗れるなんて、やっぱり信じられないよ。
それよりも、それよりもだよぉ。
私はビクビクドキドキしながら、運転席のシートに、後ろから手を当ててみた。
革のシートの向こうに、ただならぬ気配を感じる。
そう、ハンドルを握る彼。
……うそだぁ。
私はまだ、自分が夢でも見ているんじゃないかと疑っている。
だって。
だってね……。
ずっとユーチューブで追いかけていた元伝説のホスト。
いつか本物のオーランド様を見れたらいいな。
いつか本物のオーランド様に会えたらいいな。
ユーチューブを観はじめた頃、漠然とそんなことを考えていた憧れの人。
私みたいな一般人が、一生お近づきできるはずのない画面の中の有名人。
そんな人が、今、私の目の前にいるんだよぉ。
「酔っていないかい、美雨さん?」
すると、ハンドルを握る金髪碧眼の美男子が、こっちを振り返った。
オーランド様が、私の名前を呼んでくれている。
う、うそだぁ。
「えええ……あああ……」
私は緊張で声が裏返る。
彼の瞳は、画面で見るよりも鮮やかな青い色をしていた。
黄金のロングヘアはポニーテールにまとめられ、サラサラの髪は毎日手入れを欠かさない女の子の髪の毛よりも艶やかに見えた。
「安全運転しているつもりなんだけど、この車、かなりじゃじゃ馬だからさ」
「あああああ……えええええ」
「フフフ、無理に喋ろうとしなくてもいいよ。女の子は小さく頷いてくれるだけでも可愛いからね」
いわれた私は、すぐに高速で小首を縦にふった。
画面ではわからなかったが、彼はすごくまつ毛が長かった。
口を開くたびに、彼の口からは爽やかなミントの香りがする。
私は彼の言葉を聞き逃さないと必死だった。だが、興奮と緊張で、もはや彼がなにを訊いているのかよくわかっていなかった。
すると。
「神宮寺さん、大丈夫?」
今度は助手席に座っている陽斗くんが、心配してこっちを見た。
「あああああ」
「オーランドさん、神宮司さんが車酔いしてないかって、心配しているよ?」
「ええええええ」
わかってるよ。
うん、わかってるんだよ。
でも。
でもね。
緊張して、言葉が出てこないんだぁ。
私は前髪の隙間から、陽斗くんを見る。
ちゃんと答えなきゃ。
しっかりしろ、私。
でも、口がもごもごしてしまう。
この状況が、なにせ現実感がなさすぎて……。
ああ、ダメだ……頭がボーっとしてきたよぉ。
誕生日とお正月とクリスマスと……ええと、ええと……とにかく素敵なイベントが一気に押し寄せてやってきた……そんな気分だ。
「神宮寺さん?」
「あっ……」
気がつくと、陽斗くんと目が合っていた。
キャアアア。
もちろん知っていたが、陽斗くんもオーランド様に負けないくらい瞳が綺麗だった。
今は少し伸びた前髪が目にかかっていて、それがとっても素敵で魅力的だった。
恥ずかしさで目を逸らすと、今度はまたオーランド様と目が合ってしまう。
「もし気分が悪くなったら止まるから、遠慮なくいってね」
キャアアア。
私はとっさに前髪で顔を隠す。
もうなんか息苦しくなってきた。
どうしよう。
どうしよう。
「神宮司さん? オーランドさんが、そういってるよ?」
「あああああ……はははは……ははははい」
私は、こっちを見て苦笑している陽斗くんに、なんとか頷いた。
オーランド様の方は、なんかもう……緊張で見れなかった……。
まったくもって。
でも。
これって。
これって。
まさか、両手に花、っていう状態なのかな?
いや、ハーレム。
そう、ハーレム。
いや……それは、男の子に使う言葉だっけ。
ええっと、ええっと、じゃあ、なんだっけ。
ええっとぉ……。
あ、そう。
逆のハーレム?
逆ハーレム!
じゃあっ。
私、逆ハーレムを味わっているの?
……うそだぁ。
自分の人生にそんな瞬間が訪れるなんて。
まさかだ。
でも、私は今、逆ハーレムを味わってるんだぁ。
うわぁぁ。
そう思うと、全身に鳥肌が立ってしまった。
すごい。
すごいすごい。
きっと今、人生を謳歌しちゃってるんだね!
思わず私は、膝の上に置いた拳に力を込める。
こんなの、アニメや小説でしかあり得ない設定だって思ってたよ。
逆ハーレム。
私は半ばパニック状態で、ふと思う。
え、ちょっと待って。
いや……違うよ。
別に私、好意を寄せられているわけじゃないんだよね。
じゃあ、じゃあ、ハーレムじゃないよね……。
そうだよ、落ち着け、私。
でも。
でも。
こんな経験、もう二度と味わうことはないんだろうな。
そう思うと、ものすごくこの瞬間が大切に思えてきた。
人気ユーチューバーのオーランド様と、学校イチの人気者陽斗くんに、私は贅沢にも挟まれちゃっている。
なんて、なんてすごいんだろう。
これって神さまがくれた、最高のシチュエーションだよ。
好意を寄せられているわけじゃないけど、やっぱりすごい。
真実は、両手に花なんかじゃない、逆ハーレムなんかじゃない。
そんなことは、わかっている。
わかっている。
でも。
でも。
神さまがくれた、この最高の瞬間を、感じなきゃ――私はそう思った。
音。
匂い。
光り。
空気の流れ。
ふたりの息遣い。
もう二度と味わうことのない、この最高の瞬間に、私は身を委ねよう。
私はオーランド様の車に乗っていた。
後部シートはものすごく狭かったが、そんなことはこれっぽっちも気にならない。
この車はフェラーリっていうらしい。
もちろん名前は知っているけど。
自分がこんなカッコイイ車に乗れるなんて、やっぱり信じられないよ。
それよりも、それよりもだよぉ。
私はビクビクドキドキしながら、運転席のシートに、後ろから手を当ててみた。
革のシートの向こうに、ただならぬ気配を感じる。
そう、ハンドルを握る彼。
……うそだぁ。
私はまだ、自分が夢でも見ているんじゃないかと疑っている。
だって。
だってね……。
ずっとユーチューブで追いかけていた元伝説のホスト。
いつか本物のオーランド様を見れたらいいな。
いつか本物のオーランド様に会えたらいいな。
ユーチューブを観はじめた頃、漠然とそんなことを考えていた憧れの人。
私みたいな一般人が、一生お近づきできるはずのない画面の中の有名人。
そんな人が、今、私の目の前にいるんだよぉ。
「酔っていないかい、美雨さん?」
すると、ハンドルを握る金髪碧眼の美男子が、こっちを振り返った。
オーランド様が、私の名前を呼んでくれている。
う、うそだぁ。
「えええ……あああ……」
私は緊張で声が裏返る。
彼の瞳は、画面で見るよりも鮮やかな青い色をしていた。
黄金のロングヘアはポニーテールにまとめられ、サラサラの髪は毎日手入れを欠かさない女の子の髪の毛よりも艶やかに見えた。
「安全運転しているつもりなんだけど、この車、かなりじゃじゃ馬だからさ」
「あああああ……えええええ」
「フフフ、無理に喋ろうとしなくてもいいよ。女の子は小さく頷いてくれるだけでも可愛いからね」
いわれた私は、すぐに高速で小首を縦にふった。
画面ではわからなかったが、彼はすごくまつ毛が長かった。
口を開くたびに、彼の口からは爽やかなミントの香りがする。
私は彼の言葉を聞き逃さないと必死だった。だが、興奮と緊張で、もはや彼がなにを訊いているのかよくわかっていなかった。
すると。
「神宮寺さん、大丈夫?」
今度は助手席に座っている陽斗くんが、心配してこっちを見た。
「あああああ」
「オーランドさん、神宮司さんが車酔いしてないかって、心配しているよ?」
「ええええええ」
わかってるよ。
うん、わかってるんだよ。
でも。
でもね。
緊張して、言葉が出てこないんだぁ。
私は前髪の隙間から、陽斗くんを見る。
ちゃんと答えなきゃ。
しっかりしろ、私。
でも、口がもごもごしてしまう。
この状況が、なにせ現実感がなさすぎて……。
ああ、ダメだ……頭がボーっとしてきたよぉ。
誕生日とお正月とクリスマスと……ええと、ええと……とにかく素敵なイベントが一気に押し寄せてやってきた……そんな気分だ。
「神宮寺さん?」
「あっ……」
気がつくと、陽斗くんと目が合っていた。
キャアアア。
もちろん知っていたが、陽斗くんもオーランド様に負けないくらい瞳が綺麗だった。
今は少し伸びた前髪が目にかかっていて、それがとっても素敵で魅力的だった。
恥ずかしさで目を逸らすと、今度はまたオーランド様と目が合ってしまう。
「もし気分が悪くなったら止まるから、遠慮なくいってね」
キャアアア。
私はとっさに前髪で顔を隠す。
もうなんか息苦しくなってきた。
どうしよう。
どうしよう。
「神宮司さん? オーランドさんが、そういってるよ?」
「あああああ……はははは……ははははい」
私は、こっちを見て苦笑している陽斗くんに、なんとか頷いた。
オーランド様の方は、なんかもう……緊張で見れなかった……。
まったくもって。
でも。
これって。
これって。
まさか、両手に花、っていう状態なのかな?
いや、ハーレム。
そう、ハーレム。
いや……それは、男の子に使う言葉だっけ。
ええっと、ええっと、じゃあ、なんだっけ。
ええっとぉ……。
あ、そう。
逆のハーレム?
逆ハーレム!
じゃあっ。
私、逆ハーレムを味わっているの?
……うそだぁ。
自分の人生にそんな瞬間が訪れるなんて。
まさかだ。
でも、私は今、逆ハーレムを味わってるんだぁ。
うわぁぁ。
そう思うと、全身に鳥肌が立ってしまった。
すごい。
すごいすごい。
きっと今、人生を謳歌しちゃってるんだね!
思わず私は、膝の上に置いた拳に力を込める。
こんなの、アニメや小説でしかあり得ない設定だって思ってたよ。
逆ハーレム。
私は半ばパニック状態で、ふと思う。
え、ちょっと待って。
いや……違うよ。
別に私、好意を寄せられているわけじゃないんだよね。
じゃあ、じゃあ、ハーレムじゃないよね……。
そうだよ、落ち着け、私。
でも。
でも。
こんな経験、もう二度と味わうことはないんだろうな。
そう思うと、ものすごくこの瞬間が大切に思えてきた。
人気ユーチューバーのオーランド様と、学校イチの人気者陽斗くんに、私は贅沢にも挟まれちゃっている。
なんて、なんてすごいんだろう。
これって神さまがくれた、最高のシチュエーションだよ。
好意を寄せられているわけじゃないけど、やっぱりすごい。
真実は、両手に花なんかじゃない、逆ハーレムなんかじゃない。
そんなことは、わかっている。
わかっている。
でも。
でも。
神さまがくれた、この最高の瞬間を、感じなきゃ――私はそう思った。
音。
匂い。
光り。
空気の流れ。
ふたりの息遣い。
もう二度と味わうことのない、この最高の瞬間に、私は身を委ねよう。